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BRIGHT STREAM(2) ◆gry038wOvE ──昼飯を食べた後、各々は部屋に戻った。 それぞれの部屋が近いので、そこまでで別行動を取る者もなく、アースラの自室に入るまで適当に話しながら、歩いて行く。 広く設備の整った自室に、暁などは感激しており、逆に良牙は落ち着かなさを覚えている。そんな風に、それぞれ反応は違っていたのだが、その部屋をだんだん散らかし始めるくらいの時間が経って行こうとしていた。 ドウコクの部屋、外道シンケンレッドの部屋、蒼乃美希の部屋は未だに空室だ。 とはいえ、その内、二つは使われる機会がないだろう。──その二部屋のうち、ドウコクの部屋は、既にそれぞれが勝手に荷物置き場にしてしまっている。 今も、ドウコクの部屋に涼村暁は荷物を取りに行こうとしていた。 この場ではデイパック内の確認が成され、「危険物」(モロトフ火炎手榴弾など)、「変身道具」(ガイアメモリなど)、「クルーの所持品」(のろいうさぎなど)、「食糧・飲料水」を除いた、比較的危険性のない支給品が置かれている。 中には、誰かの遺品と呼ぶべき物もある。──誰の支給品か判然としていなかった物も、主催側の中継放送で表示されたデータで全て明かされ、どの支給品が誰の物だったのかはわかっていた。 しかし、暁は特に気にしていなかった。ゲーム機や玩具などもハズレで支給されていたので、それらに何か使い所がないか確認しに来たのである。 ほとんどの支給品は、室内に飾られるように並べられている。 ──それを何となく、見ていた時、部屋の白壁に一人の男が凭れかかっているのを暁は確認した。 「うわっ、びっくりした!」 暁も不意に見つけたので、思わず声をあげて驚く。自分より先にこの部屋に入っていた人間がいたとは、まったく気づかなかったのである。 自分の部屋に戻ってからすぐにこの部屋に来た感覚だったので、暁も衝撃だ。 ──そこにいたのは、涼邑零であった。 「──おい、暁。あんた、何か隠してないか」 零は、表情も変えず、暁の方を見もせず、開口一番にそう尋ねた。 先ほど、食堂でのヴィヴィオとのやり取りによって、暁に、どこか帰る事に対する陰のようなものが感じられたのを零も忘れてはいない。──あれが、何となく、零を暁に接触させようとしたのだった。 それだけではない。暁に関しては妙な事がもう一つあったのだが、これまで何となく、誰もそれについて触れる事がなかったのだ。 「何だよ、急に」 「……みんな言わないが、なんで主催は第二ラウンドでお前の名前だけ呼ばなかったんだ?」 まずは、主催者が「第二ラウンド」と称して参加者の追跡を行った際に、暁の事は一切触れなかった点だろう。「ターゲット」として呼ばれた生還者の名前の中に、生存者の中で唯一、暁の名だけがなかった。 主催側は何としても生存者を全員捕まえたかったはずだ。 孤門のようにあちらの宇宙で行方が知れなくなっている者はともかく、他の生存者同様、普通に生還していたはずの暁の名が呼ばれなかったのは、不自然極まりない事実である。 「呼び忘れたんだろ」 「そんなわけあるか」 「じゃあ、呼びたくなかったんだろ」 ──暁が答えをはぐらかしているのは、零にもよくわかった。 しかし、はぐらかす中にもどこか後ろめたさのような物があるように感じられ、零も暁も少し顔色を険しくする。 呼び忘れるはずがない。世界を掌握するのが目的な中で、たった八人ほどの生還者を呼ぶのに呼び損じが出てくるはずはない。──相手も組織立って行動しているので、そんなミスに指摘が来ないはずもなかった。 呼びたくなかった、というのは更にその上を行く暴論だ。 二人がにらみ合っていると、そこに、零の指にはめられた魔導輪の声が聞こえた。 『呼ぶ必要がない……と思ったんだろうな』 ザルバが口にしたのは、零と同じ結論であった。それしかありえなかった。 そして、呼ぶ必要がない状況──というのは、いくつか挙げられる。 暁が既に捕えられている場合。暁が死亡している場合。暁が主催側の協力者であった場合。……など、様々に存在する。しかし、見たところ、そのどれでもない。 少なくとも、殺し合いの最中では、暁が不審な行動を取った事はほとんどなかったし、良くも悪くも隠し事や裏表と無縁な人間だ。石堀と違い、算段などに似合わないのがよくわかる。 「……ッ」 暁には図星だったらしいが、口を開く様子は一切なかった。まるで頑固な子供のように固まり、そこから嘘の言葉で飾ろうと頭の中で屁理屈を組み立てているようだった。 そんな様子を見ていると、零の方が、溜息をついて折れてしまった。 これ以上、仲間内で悪い空気を作るのは良くないだろう。──二人ならば大丈夫だろうと思って、こうして待ち伏せていたのだが、結局、暁にはどうしても口にしたくない事があるらしい。 「まあいいよ。別に、今更あんたを疑ってるわけじゃない。でも、何か思い悩む事があったら、何でも俺たちに言えよ……って思ってさ」 こういう、普段お気楽な人間ほど、内心では深い陰我を抱えているという事もある。 周囲に気を使い、あくまで重い空気を作らずに振る舞う中で、実は溜めこまれた悲しみや怒りを抱えている事がないとも言いきれない。 少なくとも、それが邪気のある物ではない事くらいはわかっているつもりだ。 ──だから、せめて、それを告げられる相談相手くらいは引き受けてやろうと思った。 すると、暁はようやく口を開いた。 「……じゃあ、俺の悩みを一つだけ」 深刻な顔で切りだした暁は、次の瞬間、普段通りのにやけ面で零に訊いた。 「艦長の八神はやてちゃんだっけ? あの子を落とすには、どういう──」 ◆ 高町ヴィヴィオとレイジングハートと響良牙が来ていたのは、アースラの内部にある訓練室であった。トレーニング機材が置いておらず、あくまで今は武道の為の道場のような内装の場所だ。良牙がその師範のように、神棚の前で多くの人間に向きあっている。 一番前で良牙に向き合っているのが、ヴィヴィオであった。ひときわ真剣な表情でヴィヴィオが良牙を見つめた。 良牙の方が委縮してしまいそうになるほどだった。 (まさか、こんなにいるなんてな……) 良牙の前にいる相手たちは、アースラのクルーの中でも、積極的に格闘技を習おうとする者たちだ。ヴィヴィオの友人であるリオ・ウェズリーやコロナ・ティミルほか、ストライクアーツを習う子供たちだけでなく、ザフィーラやノーヴェ・ナカジマなどのように彼女たちの師匠筋にあたる者も、興味深そうに良牙の武術を見てきたのである。 変身ロワイアルの映像の中で、魔力の適性がないにも関わらず、魔術に近い事をやってのける良牙の姿に呆気にとられた者も少なくなかったのだろう。 早乙女乱馬、明堂院いつき、沖一也……など、元々、あの殺し合いでは武道に携わる人間も多かったが、結局、そこから殺し合いの中で残って来たのは良牙とヴィヴィオだけだ。この世界の人間の中でも、武芸家たちが彼の戦法に興味を覚え、ヴィヴィオやはやての説得で、空いた時間に少しだけ教える事にさせられたのだ。 良牙は、決して乗り気ではなかった。良牙のそれは、独学で覚えてきた武道だからだ。彼らに教えるという事が少々難儀であるのはわかっていたし、こうして師匠のような扱いで講演するのも自分の柄ではない。何を教えて良いのやら、という気持ちだ。 しかし、ヴィヴィオが乱馬と長い間同行していた事を知っていた良牙も、良牙が乱馬の友人である事を知っていたヴィヴィオも、いつか互いに対して何か影響を与えたいとは思っていたのだろう。 そのチャンスが巡ってきた時であったので、良牙は躊躇いつつも、こうして三時間だけ「先生」をやってみる事にしたのだ。 「それじゃあ、良牙さん……お願いします!」 ヴィヴィオが、良牙を促すように言った。 良牙は、指をぽきぽきと鳴らした後で、首をまた横に振るって、少し低い音を鳴らした。そんな風に体中の鈍りを確かめる動作をしながら、彼は言う。 「任せとけ。とりあえず教えられる事は全部教えてやる。……出来ない奴は、今の自分の戦法をそのままに。──ここで教えた事は全部忘れた方がいい」 ──ひとまずは、ヴィヴィオに良牙の持っている技を伝授する所から初めていこう。 教える対象は、とにかく、ヴィヴィオに絞るつもりで教えてみる事にした。──他の者たちは、参考程度に二人の話を聞きながら、真似てみるのが良いだろう。 ヴィヴィオは、一也の使う赤心少林拳も早くにその型に近い物を修得するなど、良牙の目から見ても格闘に関するセンスは非常に高いといえる少女だ。ベリアル戦までに完成させるのは難しいかもしれないが、どうやら変身ロワイアル終了後も精力的に梅花の型の修練をしてみているらしい。 彼女の場合は、己のスタイルを忘れず、あくまで技の一つのバリエーションとして覚えておいた方が良さそうだ。 「──まず、獅子咆哮弾の使い方だ。ただし、これは不幸になるほど強くなる禁断の技だ。強さを求めて不幸を追わないように気を付けろ」 「「「はい!」」」 それは、誰もが最も気にしていた技だろう。 本来、リンカーコアを持たず、魔術の適性もないはずの彼が、あんな衝撃波を掌から出す事に違和感を持たない人間はいない。彼らの世界の人間は総じて神がかり的な戦闘能力を持っているようだが、その中でもとりわけ不思議な原理だ。 「じゃあ、とにかく基本から。……最初に、自分の中で嫌だった事を考えてみたり、思い出したりしてみろ」 「「「は……はい!」」」 それぞれが良牙の言葉と共に、全身に力を溜めながら、それぞれ嫌な事を考えてみた。 頭を唸らせ、友人の死や、己の過去の過ちを再度、鮮明に思い出す。──気分は曇っていく。まさしく、タイミング的にはこの獅子咆哮弾に向いた時期だったのだろう。 気が重くならない人間は、この状況下、どこにもいない。ただし、ある種集中力が試される場面でもあった。 「──そして、獅子咆哮弾!!」 「おおっ!」 良牙が叫ぶなり、良牙の組み合わさった掌から、小さな光が発射された。 不幸の技が良牙の手から表れ、周囲から歓声が上がる。ヴィヴィオ以外、生の獅子咆哮弾を見たのは初めてだった。 ただ、威力を弱めに調整し、考えた不幸も、「チャーシュー麺を目の前で食われた事」くらいに抑えておいたので、この場に被害はなく、獅子咆哮弾も何にも当たらず空中で消える。まるで空気の束が一斉に外に放出されたように、透けた音が聞こえた。 「……と、叫ぶ。ほらできた」 歓声は止んでいなかったが、良牙がそう教えると、続けて、それぞれが外壁に向けて固く構え始めた。──真剣な声で、それぞれが叫ぶ。 「「「獅子咆哮弾!!」」」 ………ヴィヴィオを含む全員が声を重ねて、獅子咆哮弾を放とうとするが、その後にあったのは、何も起きない静寂だった。 全員が掌を外に向けたまま、あるポーズのまま止まって、数秒が経過する。 「……」 誰もが、良牙の方を不安そうに見つめた。 ヴィヴィオやコロナはまだしも、ノーヴェやザフィーラですら全く出来る様子がないのだ。そうなると、自分たちより指導者の良牙に問題があるのではないかと思ってしまう。 ノーヴェやザフィーラはあまり気にしていないようだが、至極真面目な弟子たちの様子に少し照れているようだった。 「……あの。できませんけど」 ヴィヴィオが、その場の凍った空気を暖める為に、良牙に訊いた。 良牙の言った獅子咆哮弾が出来る人間がこの場には一人もいない。 だいたいが、考えてみると、嫌な事を考えて獅子咆哮弾と叫んだだけで発動してくれるのなら、今までに彼以外の習得者が出てもおかしくないはずである。 あまりにも簡単で雑なやり方に、良牙への不信感が一気に高まってくる。 「……わかった。もうちょっと簡単な所から行こう。──と思ったが、爆砕点穴は難しいな。あれの修行は辛いし、マトモなら死ぬかもしれない。だとすると、俺の技は──」 爆砕点穴の修行は、突き指になるか、指の骨が折れるかという事が確実に起きる。 巨大な岩石に叩きつけられて生きていられるくらい元が頑丈でなければ修行自体が不可能だし、それをヴィヴィオやリオやコロナのような少女にやらせるわけにもいくまい。 だとすると、他にできそうな技はないだろうか。 (な……ないっ!!) 考えてみると、良牙には技のバリエーションがそこまで多くはなかった。 武器を扱うくらいの事なら得意だが、デバイスを持ち、それを使いこなす彼女たちに対して武器の取り扱いを教授できるほど良牙は偉くはない。 しんとした静寂が流れてくる。──だんだんと、周囲が獅子咆哮弾以外にほとんど技がない事を察し始めたのだろう。 「……あの、一応、無差別格闘早乙女流の技のデータをお借りして、それを持ってきたんですけど、使いますか?」 ヴィヴィオが、良牙の近くに寄り、フォローを入れるようにそう彼に囁いた。 早乙女流の秘伝書の復元版がヴィヴィオの手に握られている。どこで取り寄せたのかはわからないが、アースラが何度も時空を超える中で玄馬から受け取ったのかもしれない。 「ん? 乱馬たちの……? どれ……ちょっと見てみるか」 良牙はそれをヴィヴィオから借りて、少々見てみた。 一応、乱馬が無差別格闘早乙女流を名乗り、乱馬の父がその元祖である事は何となく知ってはいるものの、その全貌は、今のところ良牙にもよくわかっていなかった。 元々、頼る気もなければ、それを盗む気も対策する気もなかったので、これまで乱馬たちの技を気にした事はほとんどないのだが、乱馬の死によって後継者もいなくなったようなので、とりあえず目を通すくらいはしてやりたいのだろう。 ムースから技を一つ譲り受けたように、一つくらいは何かベリアルの撃退に役立ててやろうと思ったのかもしれない。 猛虎落地勢──土下座する。 敵前大逆走──逃げながら頑張って対策を練る(知ってた)。 魔犬慟哭破──相手の攻撃が届かないところで相手の悪口を叫ぶ。 ¥(かねくれ)──金銭を要求する。 胸囲掌握鷹爪拳──女性の胸を後ろから掴む事で一時的に動きを止めさせる。 地獄のゆりかご──相手に抱きついて頬ずりする事で不愉快な思いをさせる。 ざっと見たところ、無差別格闘早乙女流の技としてあるのはそんな物だった。 その殆どは、攻撃でも防御でもなく、もはや戦闘ですらない技ばかりだ。 良牙とヴィヴィオは、あまりに酷すぎる早乙女流の技を前にして、唖然として顔が一瞬、「へのへのもへじ」になってしまった。 ──だが、すぐに正気を取り戻した。 「なんだこのスチャラカな奥義は!!」 「あーっ! 破らないでくださいっ!! まともな物もあるんですから!! ほら!!」 ヴィヴィオも、それの殆どがまともでない事はわかっていた。それどころか、正当な後継者の乱馬ですら一部の技に対しては呆れてばかりである。 中には、乱馬も一目を置く海千拳と山千拳も存在しているのだが、それは邪拳として葬り去られており、山千拳の秘伝書が一つだけヴィヴィオの手元に残っているのみだ。 ヴィヴィオは、慌ててそちらを良牙に手渡した。 「……なんだこれは」 「山千拳の秘伝書だそうです。なんでも、封印された技だとか。私の支給品でした」 「なるほど……」 良牙はそれを見て、周囲に人がいるのをすっかり忘れ、一人で頷いていた。 獅子咆哮弾の秘伝書と大きく違うのは、あれに比べて大分丁寧に内容が書かれている事だろうか。 ──いや、確かにそれが強力な技なのはわかるのだが、もしこの特訓をすれば、ここにいる誰かを殺めかねず、また、このアースラさえも壊してしまいかねないリスクがあるのが、良牙にはわかった。 「……わかった。──だが、これも教えるわけにはいかねーな」 封印された邪拳をこれほどの相手に教えるわけにもいかず、良牙もそれは諦める。 ……となると、やはり良牙は“気”について彼らに教授するしかないようだ。もしかすると、魔力と似通った性質を持つかもしれないので、時間をかけてみれば彼らは素早く飲み込む事だって出来るかもしれない。 そう考えた上で、良牙は──再度、獅子咆哮弾について、目の前の人々に原理を伝え始めた。 ◆ 他の生還者のほとんどが外を出歩いている中、花咲つぼみの部屋を訪ねてきたのは、佐倉杏子であった。つぼみも今は特に外に用事がなかったので、部屋で惰眠の沼に陥りそうになりながら、ベッドに転がっていただけだ。 丁度良かった。──勉強どころではないし、アースラの乗員も殆どは知らない人で話しかけるのに勇気を要する。こうして、つぼみにしては珍しい「退屈」の時間を埋められる相手が訪問したのは、恰好の時間潰しになる。 「杏子さん、もう少しでお茶が入りますからのんびりしていてください」 今は、杏子の訪問に対して、つぼみはとりあえずお茶でも振る舞おうと、Tパックの入った湯呑に沸騰したお湯を注ぎ込んでいる。湯気が立ち、緑茶の香が彼女たちのいる一角に広まって来た。 ドーナツならば残っている分も結構多いので、二人はそれを少しずつ食べ始めていた。美味しいのは確かだが、既にクルーも空き始めている。──が、二人は、雑談でもしながら食べた。 これから向かう場所を踏まえなければ、何て事のない友達同士の訪問とさして変わらない光景だった。 「なぁ、美希って無事かなぁ」 杏子も、他のメンバーが揃いも揃って不在なのでここに来ただけで、別段、用事らしい用事もなく、ただとりあえず、何となく話題でも挙げてこの場を繋ぐ為にそんな事を呟いたのだ。漫画本の一冊でもあればそれを手に取って読みふけるかもしれない。──ただ、今口にしたように、美希の事が不安なのは事実だった。 そんな杏子の無意識の不安に対して、つぼみは、ドーナツをとりあえず平らげて、口の中のドーナツをお茶で流してから答えた。 「……無事を信じるしかありません。それに、きっと生きています。これだけ頑張って探しているんですから、きっといつか見つかるはずです」 「ああ。でも、こっちも探してるけど、ベリアルたちも探してるんだよな」 それは、杏子らしからぬ後ろ向きな発言に感じられた。──今の彼女は、もう少しポジティブであったと思う。 ただ、かつてのような心よりの心配というほどでもない。それは、やはりこうして、美希と孤門を除く生還者全員がそれぞれの世界で守られ、この場に帰ってきているという事実があるからだろう。 それでも心の中に不安が大なり小なり浮かんできてしまうのは仕方のないかもしれない。 「──それに、あたしたちも、美希ももう変身できないし」 その事実が、ネックであった。 つぼみと杏子と美希に共通するのは、元々持っていた変身能力も、あの場で得た変身能力も奪われているという事だろう。 唯一それを破る手段がT2ガイアメモリなどのアイテムであるが、それらの道具の危険性は高く、極力使うべきではないとされている。背に腹は代えられないとはいえ、それらは危機的状況に至ってようやく使用を許される者だと言えるだろう。 そして、美希の場合、最終時点でガイアメモリは所持しておらず、回収したメモリの殆どがアースラに保管されている以上、彼女は丸腰というわけだ。 そこを狙われれば一たまりもない。 「そう、ですね……」 「それに、孤門の兄ちゃんも気になる……あたしたちに、助けられるのか?」 「確かにそれも気になっていました。沖さんみたいに宇宙での活動が出来ればせめてどうにかできたかもしれませんが──」 こうしてお茶を飲んで落ち着きつつあるからこそ、却って死者の話題や今後の不安の話も出しやすいのかもしれない。沖一也の名前が出た事で大きく気分に不調が出る様子はなかった。プライベートな空間で、友人と些細な不安を語らうような物で、内面の心配を全て外に吐き出していくような効果があったのかもしれない。 それで、むしろ、誰も触れない話題にいとも簡単に触れる事ができて、枷が取れたように楽になったともいえる。 と、その時であった。 「────安心したまえ、プリキュアよ!!」 どこからか、これまでに聞き覚えのない男性の声が聞こえて、二人は咄嗟に警戒体勢を取った。周囲を見回すが、男性の姿など、どこにもない。しかし、声は間違いなくその部屋の中から聞こえたはずだった。 幽霊にでも会ったかのように怯えながら、二人は目を見合わせる。 「だだ、誰だ……?」 「わかりません……一体どこから聞こえたんでしょうか……?」 「ここだ、二人とも……!」 言われて、杏子は、おそるおそるテーブルの上を見た。杏子が手に取ったお茶の湯のみの淵である。眼鏡をかけ、フェルト帽を被った親指ほどの大きさの初老の男性がバランスよく立っていたのが確認できた。 ──小人や妖精にしては、その姿があまりに不審者然としており、敵か味方かもわからない不気味なオーラに満ちている。 思わず、その出来事に絶句し、杏子は、まるで害虫にでも遭遇したかのように、思わず後ろの床に手をついてしまう。 「うわっ……なんだ、こいつ!!」 男は、小さいながらもニヤリと嗤った。 つぼみもその謎の男に気づいたらしく、その男に訊いた。 「な、なんですか……あなたは!?」 「私の名は鳴滝。全てのライダーと、そして、プリキュアの味方だ!」 つぼみの問いに対して、その小人──鳴滝が答える。 何故そんな姿をしているのか気になったのだが、他人の身体的な特徴を訊くのは良くないだろうと思い、口を噤んだ。もしかすると、そうした身体的特徴を持つ世界からやって来た人間なのかもしれない。 それよりか、彼が何故ここにいるのか、どうしてこんな所に侵入できたのかの方が気になったが、これだけ小さい姿をしていれば気づかれずに目の前に来る事もできるだろう。──やはりそれも訊くに値しない質問だ。 つぼみが色々考えていた矢先、杏子が先に訊いた。 「つまり、あんたもベリアルに敵対している人間の一人なのか……?」 「その通りだ! 奴はライダーたちの世界やプリキュアたちの世界をも破壊しようとしている! 私はそれを阻止する為、あらゆるヒーローたちの世界を旅している者だ……おのれベリアルゥゥゥゥゥゥゥッ!!!!」 鳴滝は、声高らかに叫んだ後、少しだけ間を置いた。自分自身で自らの発言を反芻して、考え直しているようだ。 「……」 妙な余韻が残る。──その間、つぼみと杏子は目を丸くしていた。 そして、鳴滝の方も結論が出たようで、もう一度言い直した。 「……いや、どうもしっくり来ないな。──今回は、お前は別に悪くないが……おのれディケイドォォォォォォォォォッ!!!!!!」 八つ当たりのように大声で叫んだ鳴滝であったが、その一言はこれまでの情報を関連づける事ができた。そう、彼の叫んだ「ディケイド」という単語には、二人とも聞き覚えがある。 このアースラに情報を提供している者の一人であり、左翔太郎の友人だ。本名は門矢士。まだ姿は現していない。 もしかすると、翔太郎ならば、この鳴滝という男の事も知っているだろうか? 現状では少なくとも鳴滝の話は聞いていないし、翔太郎もすぐに一人でどこかへ出かけてしまったので、ディケイドとの関係性というのはイマイチわからないのだが、──とにかく杏子は再度聞き直した。 「で、おっさん、何の用だよ……?」 女性の部屋に勝手に侵入した罪は重いが、先ほど「安心したまえ」という声をかけている。 何やら用事があるようなので、その用事とやらが一体何なのか──という事を知りたかった。それさえ済めば、この不気味な男も消えてくれると思ったからだ。 とにかく、それを聞いて鳴滝は、咳払いをしてから話し始めた。 「……蒼乃美希の所在がわかった。まずは、ここの艦長よりも先に、君たちに報告しておこうと思ってね」 「え!? 本当か!?」 「ああ。──彼女は、今、歴代ウルトラマンたちの故郷がある世界にいる」 蒼乃美希──つまり、彼女たちの仲間であるもう一人の生還者の足取りがようやく掴めたという事だ。故郷の世界にもいないので、誰もが心配していたくらいなのだが、どうやら生存していたらしい。 そして、鳴滝の計らいにより、ここの艦長よりも先に二人はそれを知る事になった。 「──生きているんですね!?」 「彼女は元気だ。ウルトラマンゼロと融合し、アースラとは別ルートでベリアルの元に向かい、一足先に孤門一輝の救出をしようとしている。だから、彼女の事も、……そして、孤門一輝の事も、心配する事はない」 そう言う鳴滝の顔は、豆粒ほどの大きさだが真剣だ。 美希がゼロなるウルトラマンと融合したという事実がさらっと語られているが、もし本当ならば──それは、非常に心強い話でもある。 カイザーベリアルという黒幕は、元々はウルトラ戦士で、ウルトラマンノアやダークザギを恐れていたという。そんな彼に対抗できる存在として、別のウルトラ戦士と協力する事ができる事実は、大きな鍵となる。 ただ、ひとまずは、美希が生存しており、アースラと同じくベリアルの世界に向かっているという事に安心していた。 再度、つぼみが確認する。 「……間違いないんですね?」 「ああ。いずれ、ここの艦長たちにも報告するつもりだ。君たちとは初対面だが、私もクロノたちとはベリアルの管理が始まって以来、情報を提供し合う関係になっている。……信頼してくれ」 確かに現状での鳴滝は、不審者でしかない。ゆえに、絶対の信頼を置いていい相手かはまだわからないのだが、クロノやはやてのお墨付きであるならば、また話は変わってくる。 それを確認する術は、今はないものの、このような嘘をついて意味があるとは思えない。──この状況下で意味もなく情報を攪乱させる愉快犯がいるとすれば別だが、まあそういうわけでもないのだろう。 それに、このアースラがなかなか美希を見つけられなかった理由についても、現在の彼女がウルトラマンとして活動している事を考えれば説明が付く。美希としての姿を見た者がいないというわけだ。 アースラと別ルートという事は、既に別宇宙に辿り着いている可能性も少なくはないし、辻褄は合ってくる。 「サンキュー、おっさん。不審者かと思ったら、良いとこあるじゃん」 「フッ……言っただろう、私は全てのライダーの味方であり、プリキュアの味方だ」 そう答える鳴滝は嫌に上機嫌である。若い少女に褒められて、悪い気はしていないようだった。 とにかく、この鳴滝の男は、ただひたすらに仮面ライダーが好きらしい。 「──……おのれディケイドォッ! 仮面ライダーも良いが、プリキュアもまた……素晴らしい物だな!!」 そして、彼はそれだけ言うと、また彼は満面の笑みを浮かべ、突如現れた小さなオーロラの中に身体を溶かして消えていった。 杏子とつぼみは呆然としながら、湯呑の淵をじっと眺めている。──まるで手品のような光景であったし、要件以外は言いたい事がさっぱりわからなかったのだが、少なくとも、今は敵ではなかったわけだ。 もしかすると、ああしてこちらに来たのだろうか。 ──杏子が平然とその湯呑で残ったお茶を飲み始めたのを見て、つぼみは引き気味に顔を青くした。 だが、杏子は全く構わずに続ける。 「で、あのおっさんは、一体何者なんだ……?」 「さあ……。でも、とにかく美希が無事らしい事はわかりましたし……結果オーライですよね」 このしばらく後、確かにクロノやはやてが「仲間からの報告」として、美希がウルトラマンゼロと融合して別ルートでベリアルを倒しに行っている事が明かされると、二人とも、彼の言葉の一定の信頼がおける事を再確認した。 ◆ ──左翔太郎は探偵である。 仮面ライダーであると同時に、優れた探査能力や推理力、行動力を持ち、今もまた、自分で考え、最適と思える行動をしていた。──味方しかいないはずのこの艦の中で、ある疑問の種を解消しようとしている。 「……」 左翔太郎は、他の誰に言う事もなく、こっそりとこの戦艦内部の奥に侵入していた。 侵入禁止とされているエリアも、彼は上手に入りこみ、暗がりの倉庫を懐中電灯などで照らしながら歩いて行く。 自分の探偵道具を使えば、このアースラの中にいる別の存在をいち早く確認できたのだ。 (どうして……“彼女”が、この艦にいたんだ?) ……そして、このアースラの中には、本来いてはならないはずの人物がいる。 翔太郎は、アースラを歩いている中で、たまたま“彼女”の存在を確認してしまった──。 ゆえに、探偵として、追わないわけにはいかなかったのだ。 「ここだな……」 倉庫の奥に、隠すように存在している日蔭のドア。──倉庫の奥はハイテクとは無縁な原始的なドアが備えられているようだった。 そこが、翔太郎の目当ての場所だった。彼は、周囲を見回し、誰もいない事を確認すると、ドアを背に立った。新しいドアノブを回した手ごたえが手に残り、ドアが薄く開く。 翔太郎は、目を凝らしてそちらを見た。 「──!」 「──やあ、左翔太郎だね」 その部屋は思いの外広く、暗く淀んでいながらも、並べられた不気味な機材たちを取り囲むように、三人ほどの人間が座っていた。彼らが、翔太郎の方を見ていた。──そこにいたのは、男性一人と女性二人、一匹の猫、それから、白い兎のような生物だ。 翔太郎は、一度驚いたのだが、それを飲み込み、堂々、その部屋に入り始めた。 どうやら、こちらに気づいていたようだ。 開き直り、部屋の中に入っていった翔太郎は、目の前の相手に告げる。 「……やっぱり、この艦の中にいやがったか。────美国織莉子」 そう、翔太郎は、彼女の姿を既に見かけていた。 目の前にいる少女──美国織莉子が、佐倉杏子に対して全ての制限を伝える場面を、モニターで確認しているのだ。ゆえに、ここに隠されていた者たちの中でも、翔太郎にも知られている存在である。 しかし、驚くべきは、その三人の容姿だ。 「……!」 一人は、白い服を着た十代後半ほどの男。 一人は、白みがかった髪の美少女。──彼女が、美国織莉子だ。 そして、翔太郎を驚かせたのは、残りの一人であった。フェイト・テスタロッサと瓜二つの、彼女よりも少し幼げな金髪の少女である。 「これは、フェイト……? どういう事だ……?」 「……」 思わぬ相手が現れた事に、翔太郎は息を飲む。フェイトとユーノが死亡する瞬間のモニター映像が翔太郎の中でフラッシュバックする。それは、フェイトと出会い、彼女を救えなかった翔太郎ゆえの感覚だった。 ただ、死人がここにいる事を驚いているのではない。彼女の命のお陰で命を繋ぐ事が出来た翔太郎は、それと全く同じ顔と目を合わすのが辛くもあった。 フェイトと瓜二つの少女が興味深そうに、翔太郎を見つめている。その瞳が、彼にはどうしようもなく耐え難かった。 「……左翔太郎さんですね」 織莉子は、そんな翔太郎の方を見ながら、冷静にそう返した。翔太郎は呆然とした顔付きのまま、織莉子の方を見た。 彼女の目つきは、生きている者のそれとは思えないほどに腐りかけていた。そんな瞳で見つめられる翔太郎も、僅かばかり緊張する。 「……ああ」 この艦の中にある暗部が、この三人の存在であるように思えた。──主催側に協力し続けた織莉子が、拘束されるわけでもなく、こうしてアースラの奥で何名かの人間と共にいる。 ただ一人、彼らと面会する事になった翔太郎であるが、この場に三人もいる事は予想外であった。 「なんで、あんたがここにいるんだ。隣の二人も……あんたの仲間か?」 「……ええ。私たちは、主催側に協力し、それを離反した三人です。こうしてここに隠れている理由という意味なら──それは、あなたたちと会えばカドが立つという配慮の為だと思われます」 翔太郎は知らなかったが──それは、主催側の人間たちのようだ。 そして、彼らはクロノやはやての配慮によって、こうして隔離されている。──実は、ヴィヴィオや杏子など、彼らに会っている人間はいたのだが、彼らのうち誰とも面識のない翔太郎以降の来航者は、この三人と会うのを意図的に避けるようにさせられていたのだ。 被害者と加害者の関係である以上、やはり余計な諍いが生まれる事が必至であると言えたのだろう。 特に、元々ここに来るかもしれなかったドウコクなどの事を考えれば妥当な判断だ。 「……ただ、厳密に言うと、アリシアは主催の協力者とは違う。あくまで、主催に協力した人間の娘だ。その人の名前は、プレシア・テスタロッサ。──君と遭遇したフェイト・テスタロッサの母だ」 白い服の男がそう言い出した。 プレシア・テスタロッサ、それに、アリシア・テスタロッサの名前は、フェイトの口から聞く事こそなかったが、変身ロワイアルに関する全参加者のデータや参加前の動向については、殆どプライベートなレベルの話まで公開されている部分がある。全員は把握していないが、翔太郎がフェイトの事を隅から隅まで把握しなかったはずがない。 フェイトがアリシアのクローンであるという事実もまた、あらゆる場所で翔太郎は聞く事になっていた。──尤も、翔太郎の知るデータが正しければ、プレシアもアリシアも死人であるはずだったが。 とはいえ、今更死人の存在で驚くはずもない。元々、フィリップと照井以外は死んだはずの知り合いしか参加していなかったくらいである。大道克己も泉京水も、NEVERという死人であった。──これで驚かなくなる自分も少し怖い。 ただ、それより、目の前の男の事も、翔太郎は知らなかった。 「あんたは……?」 「僕の名前は吉良沢優。ウルトラマンの世界からやって来た。言ってみるなら、異星からの来訪者とコンタクトを取る事ができる超能力者っていう所かな」 吉良沢優──こちらは完全に聞いた事のない名前だ。 ここまででもほとんど彼の名前が出てくる事はなかったが、もしかすると、彼の出身の世界である孤門一輝ならば何か知っていたかもしれない。 それから、超能力者というのは、少々気になった。 彼も変身するのだろうか──、と翔太郎は考える。 「──そして、織莉子は、魔法少女の能力で予知をする事ができる」 付け加えて、吉良沢が言った。 翔太郎は、黙って彼らの方を見つめていた。いつ攻撃を仕掛けられても良いように、ジョーカーメモリを握ってはいたのだが、吉良沢たちに敵意の影は見当たらない。 「正直に全てを話すよ。僕たちは、それぞれの願いと引き換えに財団Xにこの能力の提供と、協力をした。ただ、ベリアルの事は僕たちもこれまで知らされていなかったんだ」 「願い? ……あんな事を手伝ってまで叶える願いなんてのがあるのか?」 「──僕たちは二人とも、予知能力者だ。僕の出身であるウルトラマンの世界や、彼女の出身である魔法少女の世界が近々崩壊する事は僕たちも予見していた。だから、その崩壊を止める為に協力したんだ」 ──そう言われ、翔太郎は眉を顰めた。 「結果的に世界は酷い事になってるじゃねえか」 「そう。……だが、それは結果論だ。僕たちはこんな結果は求めていない──だから、寝返ったんだ」 簡単に言うようだが、吉良沢ではなく、織莉子が俯きだしたのを見て、翔太郎はそれ以上、責めるのをやめた。──考えてみれば、予知能力者という物には、絶望的な未来が見えた場合に何もできないというジレンマがある。絶望を待つしかない彼らの人生は、決して翔太郎のような普通の人間にはわからない物であるのだろう。 ……ある意味では、同情的に捉えられる部分があるかもしれない。 「こういう冷徹で機械的な言い方しかできないけど……。僕も、君たちのように巻き込まれた人間には申し訳ないと思っている。勿論、左翔太郎……あなたにも」 「……私たちの犯した罪は、いずれ、この艦の辿り着いた先で裁かれる事になるでしょう」 吉良沢と織莉子は浮かない顔でそう言う。──彼らもまた、言ってしまえば、殺し合いの被害者なのかもしれない。 サラマンダー男爵が、そうであったように……。 「……」 翔太郎は、誰よりも犯罪を憎む男だった。しかし、それでいて、誰よりも犯罪者を憎まない男でもあった。──彼らを許す時が、人より早く来てもおかしくはない。 それゆえ、それ以上は、あくまで質問として彼らに投げかける事になった。 「──だが、あんたたちの予知って奴で、こうなっちまう事は予知できなかったのか? それができるなら、世界の事だって──」 「無理だった。あの殺し合いそのものがイレギュラーだったんだ。……だから、ベリアルや財団Xも僕たちを手元に置いて予知の実験しようとしたんだろう。そして、結局それは、来訪者や僕たちの力をもってしても感知できなかった……。能力が取り戻るまでには大きな時間を費やす事になってしまったんだ」 そう吉良沢が返答した時、ふと、翔太郎はその言葉の微妙なニュアンスを感じ取る事になった。 能力が取り戻るまでに大きな時間を費やす事になった……? つまり、それは──能力が既に取り戻った、という事ではないか? そんな疑問を、翔太郎は次の瞬間、口に出していた。 「……能力が取り戻る……? それって……今は、正常に予知能力が使えるって事なのか? だとすると、ここで何かを予知した……?」 「──ああ。ここにいる織莉子は、ただ一つだけ、ここの機材の力を借りる事で、ある予知を成功させたんだ」 もしかすると、ここにある部屋そのものが、彼らが再度予知能力を取り戻す為の道具が揃えられている場所だというのだろうか。クロノたちも口にはしなかったが、その為の施設がこうしてここに備えられているという全面的なサポートが行われていたわけだ。 隠し事の匂いを感じ取り、こうして来てみた翔太郎だが、よもや、主催側の協力者と出会う事になるとは思っていなかったのだろう。 「じゃあ、その“予知”ってのはなんだよ」 だが、それよりか、彼が気にしたのは、その予知の内容の方である。 彼女がここで行った予知──それは一体何なのだろう。 吉良沢は、少し表情を曇らせ、告げた。 「この艦に、敵が侵入する。そして、この艦は──」 吉良沢の言葉は無情に響く。 「──ベリアルの島に辿り着くまでもなく、沈んでしまう」 ◆ 其処は、アースラの外──ただ、深い闇の続く空間だった。 よれよれの白衣を纏った、小汚い無精ひげと眼鏡の男が、瞳の奥を輝かせてニヤリと嗤う。 「────さて」 彼の名はニードル。 この殺し合いにおいて、ベリアルに確かな忠誠を誓っている者であった。 そして、そんな彼が立つ後ろには、何百人、何千人という規模の再生怪人たちの軍団が息を巻いている。獲物を狩るのを今か今かと待ちわびているようだった。 「我々も準備が完了したところで、そろそろ邪魔をさせてもらいましょうか──」 彼らの目の前に、光が円を描き、その中に緻密な魔法陣の姿が形作られ始める。 それは、ニードルの持つ「時空魔法陣」であった。距離や時空を問わず、二つの地点を結ぶ事ができる特殊な力学である。殺し合いの場においても、それは運用され、今生き残っている参加者たちも使用する事になったが──ニードルが、それを発動できるという事実は忘れてはならない。 そして、生還後に涼村暁がニードルと接触し、その動向が追われていた可能性が決して低くないという事実もまた──。 「──行きましょう」 ニードルは、この時空魔法陣を通して、間もなくアースラに襲撃を仕掛けようと目論んでいたのである。 怪人軍団は、声を合わせて、アースラへの侵入までのカウントダウンを開始した。 タイミングは今しかない。──蒼乃美希と血祭ドウコク以外の参加者が一同に会している今。 「カウント、ゼロ。夜襲(ナイトレイド)の始まりです……」 ◆ 時系列順で読む Back BRIGHT STREAM(1)Next BRIGHT STREAM(3) 投下順で読む Back BRIGHT STREAM(1)Next BRIGHT STREAM(3) Back BRIGHT STREAM(1) 左翔太郎 Next BRIGHT STREAM(3) Back BRIGHT STREAM(1) 花咲つぼみ Next BRIGHT STREAM(3) Back BRIGHT STREAM(1) 佐倉杏子 Next BRIGHT STREAM(3) Back BRIGHT STREAM(1) 高町ヴィヴィオ Next BRIGHT STREAM(3) Back BRIGHT STREAM(1) レイジングハート Next BRIGHT STREAM(3) Back BRIGHT STREAM(1) 涼村暁 Next BRIGHT STREAM(3) Back BRIGHT STREAM(1) 響良牙 Next BRIGHT STREAM(3) Back BRIGHT STREAM(1) 涼邑零 Next BRIGHT STREAM(3) Back BRIGHT STREAM(1) ニードル Next BRIGHT STREAM(3) Back BRIGHT STREAM(1) 吉良沢優 Next BRIGHT STREAM(3) Back BRIGHT STREAM(1) 美国織莉子 Next BRIGHT STREAM(3)
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BRIGHT STREAM(4) ◆gry038wOvE やがて、彼らもすぐにアースラの管理中枢まで辿り着く事になった。 その間、目立った妨害はなく、逆に、残存する『闇の欠片』たちに出会う事もなかった。それを彼らは怪訝に思った。 『なんか……随分とあっさりと近づいてる気がしないか?』 「……確かに、そんな気もする」 「却って怪しいな……」 流石に、ここから先は危険と隣り合わせである事も覚悟していた身である。まだ敵が彷徨っていてもおかしくはなかった。 それにしては奇妙なほど、彼らを襲う陰はない。 ──が、その原因はすぐに判明する事となった。 「──はぁっ!」 彼らが更に複数の角を曲がり、管理室付近へと辿り着いて見れば、眼前には、既に廊下の数十メートルを覆うほどの魔物の群れがあったのだ。 ある者は背中に生えた邪悪な羽根をはばたかせ、天井に頭がつきかねん勢いで空からその様子を見つめている。 そう、この魔物の群れは、管理システムの破壊の為に集まって来たようであった。既にその場に多くの敵が辿り着いたから、ここまでの道のりがこんなに手薄だったのだ。 そして、生還者の目的地は、殆ど必ず──ここしかない。 「せやぁっ!!」 ウエスターとサウラーの声が、時折聞こえてくる。何とか──辛うじて、二人がそこを守っている様子であった。そのほかに微かに増援もあるだろうが、少人数で大量の再生怪人軍団たちを倒すのは不可能といって相違ない。持久戦というにはあまりにも無謀だ。 だが、そこで持ちこたえ、圧倒的な人数に絶望しかねなかった彼らにとっては幸いな事に、次の瞬間には、怪物たちは半減する。 ──その怪物たちの攻撃目標は、ある者がはやてたちを見つけた瞬間、すぐに切り替わったのだ。 そう、他ならぬ、生還者たちへと──。 「コマサンダーッッ!!」 ジンドグマのコマ型怪人・コマサンダーの叫びを、敵目標発見の報せと訳したのか、部隊の一部は、視線を百八十度変えた。 コマサンダーに限らず、カイザークロウ、死神バッファロー、サタンスネークなどといった強敵たちまでもはやてたちの側に気づいたのである。 綺麗に部隊を半分に分散させた怪人軍団は、管理システムへの襲撃と並行して、生還者への攻撃を始める。 「──まずいっ、こっちに来たっ!」 「変身やっ!」 もはや、それはこの数日を経験した者には不要な合図だったかもしれない。 はやての合図よりも早く、音が鳴った。 ──JOKER!!── 「燦然!!」 言われるまでもなく、警戒を強めていた翔太郎はメモリをロストドライバーに装填し、仮面ライダージョーカーへと変身する。暁もまた、シャンバイザーを取り出し、超光戦士シャンゼリオンへと燦然する。 この二人と零が前に出た事で、ヴィヴィオやレイジングハートや良牙の援護はまだ不要な状態になった。 「──さあ、お前の罪を数えろッ!」 「今回は、倒す前から言っておく……俺ってやっぱり決まりすぎだぜ!」 「お前らの陰我、纏めて俺が断ち切るッ!」 先陣を切って現れたカイザークロウのもとにジョーカー、死神バッファローのもとにシャンゼリオン、サタンスネークのもとに零が駆け出し、殴りつけ、叩きつけ、斬りつける──。 そして、いずれの場合も、敵は苦渋の表情を浮かべ、口から泡を吐くような声を漏らしたが一撃では沈まなかった。 「──コマサンダー!!」 各々がその戦いを優先している間に、怪人たちは次々と近づいて来る。 戦いと戦いの隙間をすり抜けて、彼ら以外の生還者を狙う者たちもいれば、カイザークロウたちに加勢する者もいた。到底、ジョーカーやシャンゼリオンや零だけではそれを追いきれない。 何にせよ、生還者といえど、この状況では戦わねばならないという事らしい。 「……いいんだよな? 今度は戦わせてもらうぜ」 良牙が呟くと、はやてが頷いた。 この艦にもう一人、「エターナル」がいるというのに、良牙はそんな事を構わず、エターナルのメモリとロストドライバーを取りだした。 今、エターナルが選んでいるのは生者である良牙だ──。 かつて、克己という正しい変身者がいた事を忘れずに、良牙はそれを装填した。 ──ETERNAL!!── ──DUMMY!!── 良牙はエターナルに、レイジングハートはダミーメモリによって大人なのはに、──それぞれ、その姿を変える。 彼らは第二の壁として、近寄ってくる怪人軍団へと立ち向かった。 後方にいる他の仲間を守る為だ。 「おらっ!」 「ぐわぁぁぁぁっ!!」 エターナルのパンチが、コマサンダーの身体を一瞬で打ち砕き、泡と消した。 そんな様子を見て、ヴィヴィオたちは安心する。 ヴィヴィオが尚も、変身せずに残ったのは、完全に変身者がいなくなる事態を避けたからだろう。はやても、騎士の装甲こそ纏っているが、まだ戦う様子はない。 そして、彼らが戦っている隙に、はやてが、残ったつぼみと杏子に指示を開始する。 「二人とヴィヴィオはこっちへ! 武器庫がある!」 はやてがここで戦闘を行わないのは、この二人の誘導の為だ。──変身できないつぼみと杏子であっても、誰でも変身できるアイテムならば使用できるし、それ以外にも手に持つ事ができる武器はある。 だから、支給品の内、アースラが回収した者が置いてある武器庫に向かう事になる。 「──……まあ、あれはまだ完成してないが、この際、しゃあない」 そして、二人が近くの分岐をはやての後を追うようにして駆けだすと、何人かの倒し損ねた怪人たちがそれを追おうとしたが、エターナルたちはそれを阻み、次々と引きはがして殴り倒していった。 ◆ 武器庫。 ──ここは、武器庫といっても、普通の部屋であった。あくまで、回収した武器の内、危険性の高い物を厳重に保管している場所に過ぎない。 はやて、つぼみ、杏子、ヴィヴィオの四名が向かったのは、其処であった。 管理システムの前と異なり、彼女たちを追ってくる敵は全くいなかった。──それだけ、武器庫が普通の部屋の中と区別がつかなくなってしまっていたという事だろう。部屋の用意が出来なかった事が、却ってフェイクになったらしい。 つぼみが、その部屋のドアの前ではやてに訊いた。 「ガイアメモリが保管されているんですよね。……あれを使っていいんですか?」 「──二人に与える武器は、ガイアメモリやない。あれは、おそらくあの会場以外で普通の人間がドライバーなしで使えば暴走の危険性がある物や。……それに、マキシマムドライブの為に使えるとわかっているから、もう全部良牙くんたちに預けてある」 「……じゃあ、何でこんなところに来たんだよ」 「……」 はやては、彼女たちに何も言わなかった。 ただ、その部屋のロックを指紋と瞳孔の認証で解除し、魔力を部屋の鍵の代わりにその場に流しこむ事で、ドアを開ける。 本来、はやて以外はその部屋に立ち入る事はできないはずだった。 そう、この認証がある限りは──。 「──ッ!?」 ──が、その武器庫に入った瞬間に、自動的に部屋のライトが灯ると、先客がいた事が判明してしまった。 入室した瞬間である。その部屋に置かれていた武器をその手に掴み、漁り尽くそうとしていた不気味な怪人の姿を間近に目撃する事になったのだ。 四人が敵に驚いた時、相手もこちらに気づいた。 「ザレザっ!?」(誰だ) 訊いたのは、侵入者の方だ。その侵入者は、異民族の言葉「グロンギ語」を使用していた。 ──バトルロワイアルの参加者の一人であり、殺し合いに乗る側だった存在だ。 だが、結果的にその怪人は誰一人として倒す事が出来ないまま、仮面ライダーやアインハルトに敗れ去り、力を失った所でノーザの洗脳を受けたスバルに屠られたのである。 ここにおいても、誰とも協力する事なく、こうして隠れ潜んで力を得ようとしていたわけだ。──武器を得て、より強力になりたかったのかもしれない。 「ゴオマ……ッ!」 ズ・ゴオマ・グ。 グロンギの怪人の一人であり、その姿は究極の力を借りた後の姿であった。不完全ゆえ、その頭髪は焼けたように縮れて膨らんでいたが、その力は彼女たち人間の比ではない。 たとえ、はやてやヴィヴィオがいるにしても、この二人だけでは少々力不足だ。 「──まずいっ! 逃げてっ!」 「ビガグバっ!」(逃がすかっ!) 闇の欠片によって現れたゴオマは、彼女たちの元に歩きだし、逃げ切れなかったはやての首根をとがった指で掴んだ。閉じたドアを背にしてしまったばかりに、すぐに逃げ出せるような逃げ場はなかったのだ。 頸動脈を絶たん勢いで硬く掴んだゴオマの力に、はやても危機を覚える。変身していないつぼみたちが狙われたならば、その時点で殺されたかもしれない。そんな危険な状況だったのだ。 「くっ……」 しかし、この部屋にこうして先に侵入者がいるとは、はやてもこれまで思っていなかった。 ──考えてみれば、克己たちが違うだけで、闇の欠片に再生された者は、時折、ランダムにあらゆる場所に転送される性質を持っている。 そう考えると、ブリッジや転送室を含め、既にこの艦に安全圏などないのかもしれない。 「八神さんっ!」 「くそっ……離れろっ! バケモン!!」 ガドルたちの恐ろしさは、つぼみや杏子もよく知っている。 だが、立ち向かわずにはいられない。無力だとわかっていながらも、はやてを助けるべく、つぼみと杏子はゴオマの身体を蹴り倒そうとする。 だが、効果はゼロに等しかった。それどころか、その固い体表によって、逆に彼女たちが衝撃を受けて倒れているほどだ。 「──二人とも、離れてッ! アクセルスマッシュ! はぁっ!!」 ヴィヴィオがクリスの力を借りて、ゴオマの背中に向けて何発もの魔力を込めた打撃を与えた。 ──それにより、空気の波が振動する。打音は心地良くも聞こえる。 しかし、効果はいまひとつというしかなかった。ヴィヴィオの手にも手ごたえがなく、彼女は険しい表情で冷や汗を流した。 「…………っ!!」 そうこうしている内に、はやての顔がだんだんと青ざめてきた。 呼吸が出来ない上に、ゴオマの力が強すぎて圧迫される首の部分にも相当な負担がかかっているのだろう。 その様子を見上げながら、つぼみと杏子は焦燥感を募らせる。 「八神さん……っ!」 「に…………げ、て…………」 そう言われるが、彼女たちも逃げる気はない。 一刻も早く助けなければならないが、その為の力がなく、その上、このままだと自分たちがゴオマに狙われる事まで時間の問題だ。ヴィヴィオですらゴオマに対したダメージを与えられていない。 はやての顔が苦しんでいくたびに、つぼみと杏子は、恐怖より前にそれを助けなければならない気持ちでいっぱいになる。ヴィヴィオもだんだんと焦り始めていた。 「っ……! どうしたら……っ!」 「くそっ……!」 ──二人は、打開策もないのに、思わず、再び立ち上がった。 何もできる事はない。それどころか、また立ち向かったところで、危険かもしれない。 無謀であった。何か奇跡的な偶然が起こらなければ、彼女たちが勇気を奮って立ち上がった意味は瞬時になくなり、二人の命も消えるかもしれない。 「誰か……っ!」 つぼみは手を合わせて祈った。 それは咄嗟の出来事であったが、やはり奇跡的な偶然や神頼みしか方法が浮かばなかったのだ。 だが、そんな時である。 「──!」 ──その「奇跡的な偶然」は、起こったのだ。 「──プリキュア・ブルーフォルテウェイブ!!」 その部屋の隅から、どこか懐かしい叫びが聞こえ、ゴオマの背中から青白い光が飲み込んだ。はやてやヴィヴィオさえも巻き込んで、それは、ドアの前にまで波打って行く。 高波が襲い掛かるような衝撃に、ゴオマの手は思わずはやての首元から離れた。 「グッ……グァッ…………ッッ!!」 ゴオマはどうやら苦しんでいるようだが、はやてとヴィヴィオには一切、その攻撃によるダメージがなかった。──邪心を持つ者にしか、その攻撃は効かないのである。 つぼみは、驚きながらも、その攻撃の主の姿を部屋の中で見つけ出した。振り返れば、そこに“彼女”がいる──。 二度と会えないはずの彼女だ。 「まさか……」 ──水色のウェーブの髪。 ──白い生地に青い飾りを拵えた衣装。 ──少しばかり小柄な体躯。 そして、ここまでの出来事を全く気にしていないかのような陽気な笑みと、どこか照れ隠しのように後頭を掻く姿。 全く同じ名前の技を放つ知り合いを、つぼみは一人知っていたが、彼女を確信させたのはその愛しい姿を見つけた時であった。 「え……──」 そして、そこにいるのは、その知り合いだ。 何より、闇の欠片ならば、その人間を再現していてもおかしくはない──。 「──……えりか!?」 「えへへへ……つぼみ、久しぶり。なんか、こっちに転送されてきちゃったみたい」 ──来海えりか、キュアマリンであった。 いや、見れば、彼女が先頭に立っているというだけで、ここにいるのは彼女だけではないようだ。 キュアマリンに限らず、多数の戦士の魂を象った闇の欠片が、次々とそこに転送されていく。──否、彼女たちに限れば、それは「闇の欠片」という言葉を言い換え、「光の欠片」とでも呼ばなければならないかもしれない。 とにかく、順番に転送されていく欠片たちは、彼女たちに縁のある少女たちだった。 「ピンクのハートは愛あるしるし! もぎたてフレッシュ! キュアピーチ!」 「イエローハートは祈りのしるし! とれたてフレッシュ! キュアパイン!」 「真っ赤なハートは幸せのあかし! 熟れたてフレッシュ! キュアパッション!」 「「「レッツ、プリキュア!」」」 桃園ラブ、山吹祈里、東せつなの三名を象ったプリキュアたちが、邪悪な気配を前にして敢然と名乗りをあげる。 立ち上がったゴオマは、前方で名乗った彼女たちの姿を見て、息も切れ切れながらにその姿を睨んだ。 杏子やはやても、ヴィヴィオでさえも唖然とした様子だ。 「せつな……!」 「祈里さん……!」 二人の呼びかけに、キュアパッションとキュアパインが手を振った。それに、キュアピーチも笑顔でうなずいている。キュアベリーがいないのが少々だけ残念であったが、彼女の欠員もまた仕方のない話だった。 ──そう、彼女たちがよく知る者たちが、光の中からここに転送されてきているのだ。 更に、次の戦士たちも転送されてきた。 「──それなら、こっちはピュエラ・マギ・ホーリー・クインテットね」 「……長いわ」 「マミさん、悪いけどそれ、覚えらんないんだけど……」 「えっと……とにかく、こっちも頑張ろうっ!」 プリキュアの名乗りに対抗するかのように、奇妙な団体名を口にしたのは、巴マミ、暁美ほむら、美樹さやか、鹿目まどかの四人の魔法少女であった。 ゴオマは、そんな彼女たちが現れた左側の隅を見て、そのうち一人──桃色の髪の魔法少女にどこか見覚えがあるのを思い出し、少し鼓動を早め、息を荒げた。 つぼみもまた、そこに知り合いがいるというのは同じだ。 「さやか……」 杏子には、その全員に対して何か記憶がある。元の世界に戻った時に更新された記憶では、魔女との戦いと魔獣との戦いの二つの思い出も追加されている。 だが、どの世界にも共通して言える事がある。 「……みんな」 ──そこにいるのは、友だ。 そう、一人残らず──。 「えっと……高町なのは、頑張りますっ!」 「フェイト・テスタロッサ……行きます」 「あ、こんにちは。ユーノ・スクライアです。……って、あれ!? 僕だけ男だよっ!? いいのかな、ここにいて……」 ゴオマから見て右の隅からは、高町なのは、フェイト・テスタロッサ、ユーノ・スクライアの三名のまだ幼い魔導師が現れる。 とにかく名乗りをあげようとしたが、彼女たちもすぐには思いつかなかったらしい。その姓名だけを簡単に名乗り、ゴオマを前に、まだ少し緊張感のない様子を見せた。 はやても、そんな彼女たちの姿を見て、やっと吸い込めた息で言葉を形作った。 「……あれは、……なのはちゃん……フェイトちゃん……ユーノくん……夢やないんだよな……」 「はい! ──小さい頃のママたちが助けに来てくれたみたいです!」 はやては、ヴィヴィオの肩を借りて、その部屋のもっと奥に避難しようとしていた。 そんな中でも、なのはやフェイトやユーノの闇の欠片が出現した時には、彼女の顔色も随分と良くなったような気がした。 ゴオマは、ここにいる何名もの全てが敵である事を解したのか、少々、驚嘆している。 これまでのゴオマの戦いで、最も多くの敵が同時に責めてきている。──それも、リントとはくらべものにならない力を持つ強敵たちが。 「……サンキュー、助かったぜ! ──フェイト、ユーノ……また会えてよかった!」 彼女たちの後ろに向かった杏子たち──動じていないわけではない。 だが、はやてやつぼみに比べればまだ、闇の欠片の性質を割り切って考えて、落ち着いている部類だった。そんな言葉がかけられるほどだ。 キュアマリン、キュアピーチ、キュアパイン、キュアパッション、鹿目まどか、美樹さやか、巴マミ、暁美ほむら、高町なのは、フェイト・テスタロッサ、ユーノ・スクライア……そこに集った少女たちは、いずれも欠片に過ぎない。 だが、少なくとも──友達の為に協力するくらいの魂はその中に残されている。 「まだまだいるよ~!!」 戦慄するゴオマの元に、更に数名の戦士が転送される。 ──新たにそこにデータが送られた闇の欠片は六つ。 キュアサンシャイン、キュアムーンライト、ダークプリキュア、スバル・ナカジマ、ティアナ・ランスター、アインハルト・ストラトス。 少しばかり、業が深かった者もいるだろう。──だが、それでも、助けが必要とされている状況だった。そんな時に立ち上がらない彼女たちではない。 「いつき、ゆりさん、なのはさん……!」 「アインハルトさん……!」 それらが現れた事にゴオマが更に驚いたのだが、他の闇の欠片たちは、──それを誰より驚くはずの生者でさえも、至極冷静であった。 とにかく、これにて、ゴオマの敵は十九名になったわけだ。 はやてたちの危機に、闇の欠片たちは続々とこの場へと転送される。まるで因果が彼女たちをこの場に近づけているかのように。 「まったくもぉ~。みんな遅いよ~、名乗り損なっちゃったじゃん」 「なんだか……色々あった割には元気だよね、マリン」 「逆に怖いわ。……本当に私を許してくれるの?」 キュアマリンのあまりにも軽い態度に、キュアサンシャイン、キュアムーンライトと順に驚いている。それというのも、やはり、三人とも、えりかの死に何かしら関わり、ムーンライトに至っては加害者そのものであったからだろう。 自分を殺した相手を許すというのはなかなか出来ない。そんな機会は滅多にないのだが。 「そんな事言ったって、過ぎた事をとやかく言っても仕方ないし。あたしの心は海より広いんだからね~っ!」 と、キュアマリンは言うが、はっと一つの事に気づいたように振り返った。 彼女の視線の先にいたのは、黒い片翼の戦士──ダークプリキュアである。 「……っていうか、こっちこそ疑問なんだけど、なんでアンタがこっちにいるわけぇ?」 「あっ、それなんだけど、マリン。……ダークプリキュアは、もうダークプリキュアじゃないんだよ。一応、姿はダークプリキュアのまま召喚されたみたいだけど、ゆりさんが一緒だからね。わかりやすくしてあるんだよ、きっと」 答えたのはキュアサンシャイン──またの名を、明堂院いつきである。 最も深く関わり、彼女の事情を知っているのは彼女である。 「はぇ?」 「……彼女の名前は、月影なのは。えっと、この状況だと、名前も含めて紛らわしいけどそういう事だから」 「うーん……なんだかわかんないけど、まあいいや! とにかく今はもう味方っと。……んじゃま、そういう事ならよろしく~」 「ああ、うん。……なんだか軽いな。でも、こちらこそよろしく。キュアマリン……えりかだね」 とまあ、そんなやり取りがプリキュア同士で行われていた時、なのはも、新しく現れたスバルたちと会話を交わしていた。 「……えっと、スバルさんにティアナさん?」 なのはは、スバルとティアナに無邪気に話しかける。 ティアナもなのはに対しての憎しみをあの場で募らせたはずだが、どうもこうして幼いなのはを見ていると、そう憎んでもいられない。というより、やはり実際目の前にすると、なのはの姿は恐い物だった。 スバルが、ティアナに小声で聞く。 「……ねえ、ティア。この三人にもやっぱり敬語使った方がいいのかな?」 「えっと……どうだろう。普通に顔を合わせづらいんだけど」 そうして二人が迷っていたのを、なのはが不思議そうに首を傾げて見ていると、今度は横からアインハルトが口を開いた。 「……お久しぶりです。アインハルト・ストラトスです。ヴィヴィオさんのお母様たち、とユーノさん、それにスバルさん、ティアナさん」 「ほら、敬語必須だよ! あの子だって敬語使ってるし」 「あはは……。……あーあ、結局、今のあたしたちじゃ、なのはさんには勝てないって事か……」 ティアナは、苦笑いしながら、またどこか嬉しそうに肩を竦めた。 ともかく、ティアナがメモリの力などを含めて暴走した事を彼女たちは知らない。 水に流すも流さないもなく、彼女たちは同じ世界の人間同士として結託する流れになったわけである。 「ギガララ ゴレ ゾ ワグレスバ!!」(貴様ら、俺を忘れるな!!) と、ゴオマが自分を忘れて話を咲かせる彼女たちに向けて、突然、大声で怒った。 それを見て、彼女たちは数秒だけ考える。 「あっ、いけない。……あの人がいた事、すっかり忘れてた!」 「って言っても、あっちは一人だしねぇ。この数で倒すのは、卑怯というか何というか……」 「相手が怪物なら、卑怯もラッキョウもないわ。さっさと片付けましょう」 「うーん……倒してしまうと、本当に男が僕だけになってしまうから、できれば倒したくはないんだけど……」 「そんな事言いっこなし! もう君は外見が可愛いから女の子!」 「え~~~~~っ!?」 これが女だらけという状況でなければ、ゴオマの事を忘れるような事はなかったかもしれない。 現にユーノはしっかり覚えていたが、彼女たちの殆どは、とにかく女同士の積もる話を盛り上げるばかりで、全くゴオマを無視していたようだ。 しかし、ゴオマもまだ、無視されていた方が幸福であった事は間違いない。 一人一人でゴオマに敵わないにしても、これだけ頭数を揃えれば、もはやゴオマの分が悪すぎた。──そして、個々の力が弱いとしても、力を合わせれば更なる力を発動できる彼女たちにとっては。 「──よしっ。それじゃあ、つぼみちゃん、杏子ちゃん。これ使いな!」 と、そんな時、はやてが何かをつぼみと杏子に向けて投げた。 ゴオマがすっかり忘れられて動かなかった内に、この場に秘蔵してあった武器を発掘していたようである。はやても感動の再会より先にそちらを優先するとは、抜け目ない話だ。 元々、つぼみと杏子をここに誘導したのは、緊急時に使用すべきある秘蔵の武器を彼女たちに託すためだったのだろう。 そんな彼女に動揺しながらも、つぼみと杏子はそれをキャッチする。 それは、シプレとキュゥべえの形をしたぬいぐるみであった──それらの触り心地は、まるでセイクリッドハートやアスティオンのようだ。 「あの……何ですか? これ」 「超短期間で作った簡易デバイスや。はっきり言って、二人の使う花のパワーや魔法はこの世界の常識とは大きく違うから、これまでほどの力は使えんし、使用できるのは解除するまでの一回きり。……でも、折角、こんなスペシャルな状況やしな」 ──つまり、今、杏子とつぼみの間に渡ったのは、ハイブリッド・インテリジェントデバイスそのものであった。 術式が存在しないとはいえ、二人とも魔力に準ずる力を有している。杏子の場合は後から授かった魔法少女としての力──これは今ではレーテの影響で使えないが、杏子自身には内在する──、それから、つぼみの場合は花のパワーだ。 そんな彼女たちに向け、はやてたちは、この艦に乗る者が必ず受ける検査や、疲労や傷の治療時のデータで、最も彼女たちに適切なデバイスを制作した。 ──結果的に、おそらく使用は一度か二度が限界な使い捨て型のようなデバイスが完成してしまったわけだが、それこそ瀬戸際の状況ではこれを使ってしまうというのもまた一つの手であると言えた。 「──マスター認証、花咲つぼみ。術式、スキップ──臨機応変に。個体名称は、『シプレⅡ』」 「──マスター認証、佐倉杏子。術式、スキップ──臨機応変に。個体名称は『インキュベーター』」 認証方法を知らないつぼみと杏子であったが、デバイスの側が勝手に機械音で認証を済ませた。既に管理局内で検査した二人のデータを利用しているのだろう。 はやてがこんな物を作っていたとは、二人も全く知らなかった様子である。 それを秘匿していたのは、やはり、それが成功作といえないからだった。 折角用意したデバイスであるが、その能力はベリアルを相手にするには遠く及ばない。──ゆえに、武器があると糠喜びさせるよりも、失敗作として封印させてしまった方がまだ身が締まるだろうと考えたのだ。 「──よしっ!」 しかし、今は、はやてもどこか嬉しそうだった。 ──プリキュアたちと、魔法少女たちは、三人の姿を見守る。 「「うわっ……!」」 そして──光が消える。 次の瞬間、認証を完了すると同時に、二人の衣服が再構築され、それぞれに縁のある形のバリアジャケットを形成した。 そう、キュアブロッサムと、魔法少女と全く同じ姿に──。 全てが終わり、自分自身の恰好を二人は見下ろす事になる。──細部に至るまで、全く同じデザインのジャケットに。 「これは……! 本当に、私たちの姿……!」 「──さて、これで、こっちもカードが揃ったというわけや」 はやてが言うと、まだ驚く気持ちを抑えられないながらも、彼女たちは自分の状況をすぐに受け入れた。 こんなに心強い話があろうか──はやてがこんな物を隠していたなどと。 確かに、力がみなぎる感覚はないし、ロッソ・ファンタズマのような魔法も使えない。花のパワーも感じられず、いつものように敵に素早く技を叩きこむのは難しい。 だが──。 今は、こうして、共に「オールスターズ」と並ぶ事ができる。 「へっへーん、史上最強の女の子軍団の誕生! 一気に決めちゃうよ!」 「……あの、だから僕は男の子……」 ──キュアピーチ、キュアパイン、キュアパッション、キュアブロッサム、キュアマリン、キュアサンシャイン、キュアムーンライト、ダークプリキュア、高町なのは、フェイト・テスタロッサ、八神はやて、スバル・ナカジマ、ティアナ・ランスター、高町ヴィヴィオ、アインハルト・ストラトス、鹿目まどか、美樹さやか、巴マミ、佐倉杏子、暁美ほむら。 あの戦いの参加者の実に三分の一に近い人数がここに集い、ゴオマを睨んだ。 「──ディバイン・バスター!!」 「──ティロ・フィナーレ!!」 「──プリキュア・エスポワールシャワーフレッシュ!!」 「──リボルバー・ナックル!!」 「──覇王断空拳!!」 「──プリキュア・フローラルパワー・フォルティシモ!!」 そこから先の結果など、言ってしまう方がゴオマにとって酷である。 ◆ 「──苦戦しているようだな。……銀牙騎士の名を受け継ぐ魔戒騎士」 敵を斬りつける零たちの前にもまた、闇の欠片は次々と転送されていった。 それというのも、この艦の敵たちはあらゆる場所で一掃されていったからである。 再生怪人軍団ももう殆どが斃れており、残存勢力の殆どはそこに集中していた。積載量を大きく超過する人員が載ったアースラも、ようやく肩の荷が下り始めた頃合いだろう。 「──」 ──零の前に霞みのように現れ、敵を斬りつけていた戦士は、彼を驚嘆させるに値する存在であった。 ああ、忘れるわけもない。 たとえ、何度生まれ変わろうとも。 「お前は……」 その戦士は、魔戒騎士の名と誇りを捨て、闇に堕ち果てたはずなのだから。 そして、零はその男をずっと仇として追い続けていたはずなのだから。 それでも、その騎士の存在を認めつつはあったのだから。 「涼邑零……守りし者は、己の守るべき物の顔が見えているらしいな。──だからこそ、今、僕はここにいるのかもしれない」 ──暗黒騎士キバであった。 彼は、その剣を凪ぎ、目の前の怪物たちの群れを引き裂いて行く。よもや、キバに敵う敵など、そうそう要されるはずもなかった。 零に敵対するどころか、その活路を開こうとする彼の姿を、零は見つめた。 「バラゴ……」 『おい、いいのか、零? 一応、こいつはお前の仇なんだぜ』 「んな事言ったって、お前に殺された父さんや静香もなんか蘇っちまったしな……」 呆気にとられながらも、零は彼が切り開く活路で、更なる敵を斬り裂き続けた。 ザルバは、あまり不思議に思ってもいないようで、零への言葉はそれほどバラゴを責める意図のある物には感じられない。 「──それに、たとえ、またコイツに大事な物が狙われたとしても、今度こそ必ず俺が二人を守る」 『やれやれ。バラゴ……お前も、今度はもう余計な事は考えない方がいいぜ』 レイジングハートも戦いながら、暗黒騎士キバの姿を確かにその目に焼き付け、その様子を遠目で見つめながら呟いた。 「バラゴ……やはり、あなたも騎士であったようですね」 レイジングハートは、その事実を知れただけでも満足だっただろう。 モノであった彼女にだけ自分の心を吐露し、いつの間にか、その相手であるレイジングハートに対して、どうしてか、庇う行為をしてしまったバラゴ。 おそらくは──騎士であろうとも、人間の心は、その心の一欠片を誰かに掬ってほしかったのだろう。 人は、きっと常にそんな相手を求めている。それを誰にも明かせなかった者こそ闇の淵に近づいて行くのだ……。 「──で、主役は端で雑魚狩りというわけか。冷たいものだな、零もザルバも……」 黄金騎士牙狼(ガロ)こと冴島鋼牙もまた、黄金剣をその近くで剣を凪ぎ、振るっていた。 魔戒騎士たちの系譜は留まる所を知らない。 終わりなきホラーたちとの戦いに光を齎し続ける──。 ◆ 「──知っているか!」 同じく、暗黒騎士の二つ名を持つ男も、闇の欠片として現れたらしい。 いやはや、彼が出てきた瞬間、シャンゼリオンこと涼村暁も頭を抱えてしまう。 何せ、もうとっくの昔に倒したというのに、またこうして出てきては、シャンゼリオンの隣に立とうとするのだ。 「終生のライバルという物は、時として、力を合わせ共通の敵と戦う場合がある。そんな時には、普段いがみ合っている者同士も、意外と相性が良い事があるという……」 そうして、暗黒騎士ガウザーは、いつもの調子で薀蓄を垂れた。 しかし、指を突きつけてそう言い切ったのはいいが── 「おらっ! くたばれっ!」 「ぐわぁっ! ネオショッカーバンザーイ! どかーん! やられたーっ!」 ……シャンゼリオンも聴衆の怪人たちもとうに戦っており、敵の怪人軍団も誰一人としてガウザーの言葉を聞いていなかった。 ダークザイドの怪人ならば、もう少しガウザーに敬意を払って聞いてくれる物なのだが、そうもいかないらしいのだ。 「……」 ──ガウザーのもとに、渇いた風が通りすぎた。 誰か一人でも聞いていてくれてこその薀蓄だ。それも、彼なりに恰好のつく事を言ったつもりであったが、それを誰も聞いておらず、妙に恥ずかしい空気が流れている。 少しのタイムラグを経て、怒りが頂点に達してくると、ガウザーはその手に握られた暗黒剣を振りかざした。 「シャンゼリオン……貴様、ちゃんと聞けっ!」 「うわっ、なんで俺に斬りかかるのっ! どうでもいいお前のインチキ話なんかもう聞きたい奴がいないんだっての!」 「何だと……? 貴様、この場でもう一度勝負をやり直してみせるか……!?」 「ホラ、やっぱりお前の薀蓄は嘘ばっかりじゃねえかっ!! 何が相性が良いだよ、やっぱり俺とお前の相性は最悪だッ!」 しかし、そんな二人が剣を交え合うと、ガウザーが弾き飛ばしたシャイニングブレードが見事に運よく周囲の怪人に突き刺さり、反撃の為にシャイニングクローをガウザーに叩きこもうとしたシャンゼリオンの腕は、ガウザーの回避によって背後の怪人に誤って命中する。 期せずして、個々が怪人を相手にしていた時よりも効率良く敵が消えていくようだ。 全く、奇妙である。 だが、そういう事も案外あるのかもしれない。 「──シャンゼリオンッ!」 「黒岩ァッ!! ──」 ガウザーも、黒岩省吾もまた──暁の存在と同じく、ただの夢だ。それも、「時」が動けば消えるという暁に比べても、その寿命が短いという「闇の欠片」──即ち、夢のそのまた夢である。 しかしながら、彼は今も暁と共に戦い続ける。 誰かが忘れ去ったとしても、絶対にこの人類史において一番の名勝負をした誇りが、このガウザーの中には輝き続けるのだ。 それで、彼は、自分が「誰かの夢」であったとしても──その記憶だけを胸に止めて、自分の存在を受け入れるだろう。 彼の姿に何か想いを馳せる気持ちもあった。──が、それは自分らしくないと思い、やめた。 ◆ 「──はぁっ!!」 仮面ライダージョーカーの右腕は、以前にも比べてアタッチメントアームを自在に使いこなせるようになっている。今は、パワーアームが装着された状態で、ナケワメーケの身体にその刃を叩きつけていた。 ナケワメーケの身体が切断され、ジョーカーはそこから体の軸を回転させ、何発もの蹴りを叩きこむ。ナケワメーケが消滅していく。 「……ふぅ、まだまだあんなにいやがる」 まだまだ、敵の群れは多い。 管理システムを蹂躙しようとする怪人軍団を倒すにはどれだけ時間をかければいいだろう。──考えただけでも骨が折れそうだ。 そんな時である。 「何……この程度、俺たち仮面ライダーを相手には、大した事はないさ」 そんなジョーカーを援護するかのように聞こえた野太い声が廊下に響いた。 ジョーカーは思わずそちらを見たが、そこには既にその男の姿はない。 ──彼は、その時には既に天井近くまで飛び上がっていたのだ。そこから繰り出される技は、一つだった。 「見ていろ、仮面ライダージョーカー……! ──ライダァァァァァァァキィィィィィィィッッッック!!!!!!!」 ジョーカーの目の前を覆う怪物の群れが、空中から降り立ち、四十五度の入射角で蹴りを叩きこんだ陰に戦慄する。 怪物たちの中には、かつてその戦士たちに倒された恨みを持つ者もいただろう。 そう、彼はその戦士たちの「はじまり」。 「あれは……!!」 ──ジョーカーもまた、その陰に自然に目をやった。 そう、彼の眼前に現れたのは、銀色の手袋とブーツを持つバッタの戦士、仮面ライダー1号であった。 赤いマフラーが、ナケワメーケを蹴散らし、地面に着地した1号の首元で、死の風に靡く。 仮面ライダー1号が、ジョーカーに目を合わせた。 「──初めて会ったな、仮面ライダージョーカー。君の話は沖から聞いたぞ」 「あんたはまさか、仮面ライダー1号……!」 緑のマスクが頷いた時に、またどこかから音が聞こえた。 「──2号もここにいるぞ!」 ジョーカーが振り向けば、そこには、エターナルたちに任せたはずの後方の敵たちを殴り倒している仮面ライダー2号の姿があった。 パワフルに敵の身体を叩きつけていく、かつて人間の自由と平和を守った戦士たちの猛攻。 邪心だけを甦らせた怪物たちが、いくら数を合わせたところでも彼らに敵うはずがなかった。 否、それだけではない──この場では、見知った顔も戦い続けている。 「この俺は、ライダーマン!」 「仮面ライダースーパー1!」 「仮面ライダーゼクロス!」 「仮面ライダークウガ!」 闇の欠片によって再生された仮面ライダーたちは、どうやらジョーカーたちに協力しているらしいのだ。 仮面ライダーの意志は、誰一人欠ける事なく──。 ──そんな彼らの戦いを思わず、何もかもを忘れて棒立ちで見入ってしまっていた。 「……そうか……そういう事かよ……。それなら、俺は、仮面ライダージョーカーだ!」 だが、直後にはジョーカーは心の底からより一層の闘志の勇気が湧きあがるのを感じ、目の前の仮面ライダー1号に並び立った。周囲には敵が未だ多い。 まだ底なしの力が自分にはある。 「──こいつが……この湧きあがる想いが、仮面ライダー魂か。こいつは、本当に尽きないらしいぜ! 大先輩」 「勿論だ。この程度の敵、俺たち仮面ライダーが──いや、ガイアセイバーズが揃えば数の内に入らん!」 ◆ クロノ・ハラオウンも、こうして目の前に怪人の群れが襲い掛かって来た時には軽く絶望さえ覚えた物であったが、いつの間にかそんな気持ちは完全に失せていた。 むしろ、却って呆然としているほどだ。 死したはずのテッカマンブレードや、テッカマンエビルや、テッカマンレイピアや、テッカマンランスが──目の前の怪人軍団を各々の武器で倒し尽くしている姿に。 あまりの事に、アースラに元々乗船していた側の人間は、軒並み棒立ちして彼らの奮闘ぶりを黙って見ていたくらいである。 「……兄さん、今、何体倒した?」 「──四十五体だ」 「僕は四十九体。──途中経過は、僕の勝ちだね」 そして、そんなやり取りは、彼らが確かに「兄弟」であるのを実感させた。 その瞬間から、意地を張ったのか、急激にテックランサーで四体の敵を引き裂いて泡に引き返したブレード──どうやら、まだ弟には負けたくないらしい。 いや、むしろ──彼自身が、敗者の自覚があるからこそ、一層負けず嫌いになっているのかもしれない。 「貴様ら、現世に立った時くらい、そのくだらん兄弟喧嘩をやめられんのか……」 テッカマンランスが呆れるように二人のテッカマンを注意するが、ブレードといいエビルといい聞く耳持たずだ。 そんなランスも、次々と敵を倒していく。──意外にも、敵以外には牙を剥く様子が一切なかった。 「──まったくもう、お兄ちゃんったら……」 実の妹にあたるレイピアもやれやれ、と兄たちに呆れた様子である。 ブリッジの当面の危機は、このテッカマンたちによって回避されつつあったらしい。 クロノたちも呆然としながらも、そのロストロギアによる嬉しい誤算に、今は安堵するばかりであった。 この、突如現れたテッカマン軍団によって、ブリッジの人的被害は全て食い止められていた。非戦闘要員が襲われる暇もないほどに、テッカマンたちが残りの敵たちを倒していってしまう。 ブレードも。エビルも。レイピアも。ランスも。 それらは、かつての因縁から解放されたかのように活き活きと、敵たちを、彼らがいるべき場所へと返していく。 ◆ ──エターナルたちと、アクマロたちもまだ戦いを続けていた。 エターナルたちの方が些か優勢であり、既に、ノーザとウェザーが葬られ、残るのはアクマロだけという状況であった。しかし、これでもアクマロがなかなかの強敵であり、四人の戦士が彼を囲んでも尚、アクマロは淡々としている。 そんな戦地に、少し遅れて現れる者がいた。 コツコツ、と足音が鳴る。──それに気づいた。 「……お前は」 だが、それよりも早く──その「闇の欠片」が放つ妖気に惹かれる者が数名いたのだ。 そして、それは、この戦いの相陣営の主将に違いなかった。 エターナルとアクマロが、自ずと手を止め、他の者もそれを奇妙に思って手を止めた。 現れたのは、白いぼろぼろの和服を着た浮浪者のような男性である。──エターナルとアクマロにだけは、その男に見覚えがあった。 「妖怪……」 腑破十臓。 仮面ライダーエターナルに敗れ、「天国」でも「地獄」でもない「無」へと旅立った狂気の人斬りである。風貌は、骨格が露出したようなごつごつとした体表に、鮮血を塗したようなマスク──それが死によって齎されたものではない事は、エターナルやアクマロだけが知っていた。そして、その他の者は、彼を「地獄を通り抜けてきた者」だと誤解した。 だが、やはり、彼やアクマロのような外道は、死後に地獄に行く事さえままならなかった。 十臓には終着点はない。──ただ、その終着点に至るまでに、より多くの人の身体を斬り裂き続けようと思い立ち、そして、その中で幾人かの宿敵を見定めただけだった。 今や、その終着点を超えた彼は、無論、今こうしてまた始まった時は、次の終わりに至るまで、人を斬ろうと願ったのだが──それを、ふと、辞めた。 「本当に俺が人を斬る為の刀はもう此処に無い……」 十臓の手には、刀はなかった。 それこそ、全く以て「裏正と同じ姿」の剣は、アースラに召喚された際にその手に在ったはずなのだが、これがどうも十臓の手に合わなかったのだろう。奇妙な違和感を覚え、十臓はある結論を下した。 もう、妻の魂が込められた裏正は何処にもない、と。 その時、彼はその模造品を捨て去った。──彼が裏正に拘るのは、それがただ猛き刀だからというわけではないのだ。 妻の魂が打ち込まれていてこそ斬る甲斐があった。 「──不服だ。仮面ライダーエターナル……貴様と再び会える時、俺の手には必ず裏正があるものと思ったが、既に裏正と同じ剣はこの世にないらしい」 十臓はこの場で七人の注目を浴びながら、その中のただ一人にだけ目を向けていた。 肩を上下させ、アクマロの様子に注意を向けながらも、やはり十臓の事は気がかりで彼に視線を当てた。──尤も、アクマロの方はあまりエターナルなど気に留めずに十臓を凝視しているようだったが。 アクマロが、先に口を開いた。 「……これはこれは、十臓さん、良い所に来てくれました。どうですか、我は今、このエターナルたちを倒し、この世に地獄を──」 「──黙れ。俺はエターナルに話をしている」 返答は、一蹴。 それも即答であった。アクマロが少し動揺した様子を見せた。 エターナルが代わって口を開いた。 「妖怪……お前は俺に敗れた。もう俺に挑む資格はない。……いや、仮に挑んだとしても、お前は俺の前に成す術もないだろう」 「そうとは限らんぞ。俺はまだ、あの斬り合いの続きを楽しみにしている。……いや、だが、今の俺に用があるのはお前じゃない。──俺は今、シンケンレッドという男を探している。今の俺が求めるのはその男との決着のみ」 「この中にいねえなら、そんな奴は知らねえなッ! 他を当たれ!」 しかし、エターナルの言葉と共に、アクマロは頬を引きつらせた。 彼だけは、十臓が戦いを拘り続ける「シンケンレッド」について知っている。──そう、血祭ドウコクと共に見たあの外道。 アクマロの二つ目の命を消し去ったのは、他ならぬシンケンレッドだが、それは既に今までのシンケンレッドではなかったのだ。 「……知りたいですか? 十臓さん」 「何? 貴様が知っているのか?」 「──シンケンレッド。……ええ、存じております。……ふふ、……ええ、彼は外道の道に堕ちました……! あなたが決着をつけたがっていたシンケンレッドはもう、あの血祭ドウコクの配下です……! ふふふふふふふっ!!」 外道──今のシンケンレッドは、まさに、そう呼ぶに相応しい。そして、地位さえも剥奪され、ドウコクに忠実な家臣となったのであった。 十臓は眉を顰め、アクマロがいやらしく笑った。 あまりにも困惑した様子の十臓を前に、アクマロは笑い続けた。 「さあ、それが彼とあなたの決着です……! もう拘る必要はありません。我と共にこの艦を地獄に鎮めましょう……十臓さん!」 しかし……どうしてか、十臓は、アクマロの告げた事実に、思いの外すぐに納得した。 彼自身、シンケンレッド──志葉丈瑠の本質を何処かで見抜いていたのだろう。既に影武者であろう事は予測していたし、ゆえに、いつか外道に堕ちるかもしれないという所までは知っていた。 だが──その引き金を引くのは、自分自身だと思っていた。 ──いや、十臓はそうでありたいと望んでいたのだ。 それも、あの殺し合いの結果、潰えたらしい。 それを想うと、今度は十臓の方に笑みが浮かんできたのであった。 「──ハハハハハハハハッ……! そうか、奴はもう外道に堕ちたか……ならば、……ならば、俺もこの世に用はない……!」 人斬りの、自棄の笑いが木霊する。しかし、それは、あまり悲壮感もなく、すぐに納得して受け入れてしまったがゆえの声だった。 腑破十臓──この男はつくづく哀れだ。 何の理由もなく、ただ斬り合いだけを生きがいとしてきた男である。そんな男の悲願など、最初から叶えられようはずもなかったのだろう。 しかし、結局、自分の目算通り、自分と同じに志葉丈瑠が堕ちていったという事実は何処か笑いが出てしまった。 「妖怪。……目当てがいなくて残念だったな」 「──仮面ライダーエターナルか。貴様も変わったな。俺と同じ臭いが消えた……もう貴様とも決着をつける意味はないかもしれん。……だが、まあいい……またいずれ、何処かで会おう──」 十臓は潔く消え去った。 その消え際の笑みは、まるでまだ彼の狂気は続いていくかのようだ。 この世に微塵も満足などしていないだろう。 この世での目的は潰え、しかし、かつて一度斬り合いの果てに散ったあの悦びも、今こうして、変わったエターナルを見ていると揺らいでいく。 それでも、彼は最後まで笑った。 「──どういう事だ、アクマロ! 殿が外道に堕ちたとは!!」 「そうだ、てめえ、あの兄ちゃんを消す為に嘘を言いやがったな!!」 と、それと同時に現れたのは、シンケンブルーとシンケンゴールドである。 二人とも、十臓の後ろを追いかけていたに違いない。結果として、今の会話を聞き、彼らにも鉢合わせる形になったのだ。 彼ら二人を知る者は、ここにはアクマロとエターナルのみだった。 「嘘……なんと人聞きの悪い。私はただ本当の事を──」 アクマロの口調は相変わらず挑発的であった為に、真実を告げる口振りには聞こえなかった。──結果的に、アクマロとのこれ以上の会話は無意味になるだろう。 そんな所で、エターナルが口を挟む。 「まあ、てめえらの事情はよく知らねえが……このアクマロって奴は、倒しても構わないんだろ?」 言うと、シンケンブルーも少し悩んだが、相手がアクマロでは仕方がない。 シンケンゴールドは、かつて自分たちを襲った仮面ライダーエターナルには怪訝そうに対応したが、一方で、シンケンブルーはかつて共闘した「仮面ライダー」をある程度信頼もしている立場だ。 先に答えたのは、シンケンブルーであった。 「──そうだな。確かに殿がどうなっているかはわからないが……この状況だ、私たちにはいずれにせよ、アクマロの言う事を信用は出来ない。こいつにはとてつもない借りがある」 「仮面ライダーエターナル、だよなあ? まあいいぜ、アクマロを倒すってなら、俺たちの力の方がずっと有効だ!」 それから、間もなく──シンケンブルー、シンケンゴールド、仮面ライダーエターナル、仮面ライダーアクセル、ナスカ・ドーパント、ルナ・ドーパントの六名を相手にする事になったアクマロの末路において──。 ──あれほど見たかった地獄を、見る事になっただろう事は、言うまでもない。 ◆ 「……」 ニードルは、いよいよ──自分で作りだした劣勢に、更なるゲーム性を持たせようとした。 彼は、常にそれがゲームになるか否かを重要視している。 全参加者が集い、その明暗がはっきりと分かれた戦いに面白味を見出し、遂に史上最悪の強敵を彼らの元へとけしかけているのだ。 ──ン・ダグバ・ゼバ ──ン・ガミオ・ゼダ ──ン・ガドル・ゼバ 三体のグロンギを──。 ◆ 時系列順で読む Back BRIGHT STREAM(3)Next BRIGHT STREAM(5) 投下順で読む Back BRIGHT STREAM(3)Next BRIGHT STREAM(5) Back BRIGHT STREAM(3) 左翔太郎 Next BRIGHT STREAM(5) Back BRIGHT STREAM(3) 花咲つぼみ Next BRIGHT STREAM(5) Back BRIGHT STREAM(3) 佐倉杏子 Next BRIGHT STREAM(5) Back BRIGHT STREAM(3) 高町ヴィヴィオ Next BRIGHT STREAM(5) Back BRIGHT STREAM(3) レイジングハート Next BRIGHT STREAM(5) Back BRIGHT STREAM(3) 涼村暁 Next BRIGHT STREAM(5) Back BRIGHT STREAM(3) 響良牙 Next BRIGHT STREAM(5) Back BRIGHT STREAM(3) 涼邑零 Next BRIGHT STREAM(5) Back BRIGHT STREAM(3) ニードル Next BRIGHT STREAM(5) Back BRIGHT STREAM(3) 吉良沢優 Next BRIGHT STREAM(5) Back BRIGHT STREAM(3) 美国織莉子 Next BRIGHT STREAM(5)
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BRIGHT STREAM(1) ◆gry038wOvE 【序】 戦いを終えた参加者たちを、再び宴に誘う船──時空管理局艦船アースラ。 現在、世界の命運をかけ、再び「変身ロワイアル」を始めようとする数名の参加者たちを乗せ出航したこの船は、侍たちが戦う世界で血祭ドウコクの説得に失敗し、蒼乃美希を探して時空を彷徨っていた頃だった。 話は、変身ロワイアル終了から、四日目の正午──。 ─────────────ゲームは、再び動き出す。 ◆ アースラ内部にある食堂で、生還者一同は卓を囲っていた。 長方形の長い机の片隅で、世界の運命をかけて殺し合いに行く者たちは、各々が呑気に好きな食べ物を注文して胃の中に掻きこんでいる。気に留めず、飯を食べている者もいれば、決戦前の緊張であまり食が進まない者もいる。 まあ、実際のところ、腹が減っては戦ができない──という以前に、何かを食べなければ彼らは生きられない。これまで三日間、それぞれの動向があったが、今は何となく、好きな物に対する食欲くらいは生まれていた。 食堂で食べる白米の料理の味は、あの殺し合いの最中に支給されていた簡素なパンとは大違いだった。やはりまともな料理は美味い。 こうして、このメンバーでまともな食事をしている時に彼らが、ふと思い出すのは、翠屋のケーキをここにいるみんなで食べた時の事であった。──ただ、あの時にいたのに、今はいない人間もいるという事実も、同時に思い出されてしまうのだった。 救出された生還者は、ミーティングを兼ねて共に飯を食べているが、結局そのミーティングとやらも手がかりなしでは進まないまま、何となく、一緒に生還した残りの血祭ドウコクや蒼乃美希の事ばかり、話すようになっていた。 共通の話題として出てくるのは、主にそんなところだ。 ベリアルの名前が彼らの口から出てくる事はほとんどなかった。──もし名前を出した時、それぞれの食を止めるのが目に見えたからだろう。逃避にしかならないとしても、食事時くらいはまともな会話をしたかった。 「はぁ~~~、結局失敗か~~~ドウコクさんは不参加~~~」 高町ヴィヴィオは、その場にいる大勢の前で、体全体から溜息を吐いた。 今日は軽食で済ませたので他と違い皿は片付いている。上半身を伸ばすようにして、机に凭れかかっている彼女の顔は、どこか気疲れに塗れていた。 それというのも、つい数時間ほど前、血祭ドウコクの説得の為に左翔太郎が地上に向かって、それがようやくこうして帰って来たのを見たせいである。──ドウコクに対して怖い印象を持たない参加者はいない。とりわけ、関わりの薄いヴィヴィオなどはその傾向が強い。 何せ、ドウコクは一時的に組んだとしても、ここにいる面子と相いれない存在なのである。 そして、あの離島とは違い、彼らを縛る首輪はもうない。元々、首輪がなくなって以来、ドウコクが彼らを生かす理由はほとんどなくなっていたはずだった。 もしかすれば翔太郎が……という疑念が湧くのも無理はない話だ。 ──それでも、当の翔太郎は説得前、妙な自信を持っていたように見えたが。 「まあ、いいじゃねえか。……あんな奴いなくても、俺たちだけでやってやればいいだ」 今も、左翔太郎が、チャーシュー麺の卵を割り箸で半分に割りながらそう語っていた。これまた、誰もが絶句するような陽気さだ。羨ましく思う者もいただろう。 それにしても、チャーシュー麺を頼んで、最初に卵を割る人間というのは初めて見た気がする。──彼の腕は今や義手だ。リハビリも兼ねているのだろうか。 「……おっ、この卵──良い感じに完熟じゃねえか!!」 ──……そうではなかった。ただ単に、卵の焼き加減に個人的な拘りがあるだけだった。 ぱっくりと割れた白身から覗く黄身は、ぽそぽそと固まっている。とろみがある方が好みな者も多いと思うが、翔太郎は熟すまで焼かれた卵が好きだった。 ──いや、それは好みというほどでもないかもしれない。彼は、自身が「ハードボイルド」の資格があるという証明の為に、願掛けに近い形で完熟ばかり食べるのだ。 とにかく、こんな状況で、チャーシュー麺の卵が半熟(ハーフボイルド)か完熟(ハードボイルド)かで熱くなれる翔太郎の神経は流石としか言いようがない。 ラーメンのスープに比べると少し冷たい卵の半分を箸でつまんで口の中に入れると、翔太郎はその味を噛みしめた。 「しかも、なかなか美味いじゃねえかコレ。俺好みの風麺の味に似てるぜ」 その香を嗅ぐような表情を見るに、嘘やお世辞ではないのだろう。──元々、そうして周囲に気を使う性格でもないが。 「──おい、もし半熟だったとしても、残したらバチが当たるぜ。こんな状況だし好き嫌い言うなよ? どれ」 隣に座る少女──佐倉杏子が、翔太郎のどんぶりの上に乗った卵のもう半分を割り箸で掴み、自らの口に放りながら言った。あまりの早業に翔太郎が呆然としている目の前で、杏子は全く意に介すことなくそれを咀嚼する。 「うん、確かに美味いな」 食べ物を粗末にしないのは、彼女の主義だ。 そもそも、世界が侵略されている最中で、その侵略に抗う勢力が大勢の艦の乗員の為に食料調達をする際には、普段以上に大きな苦労がかかるのは目に見えている。それを見越すと、ここでは僅かでも食べ残しは大罪だった。ただし、そんな主義を取っ払って、「美味い」、「不味い」という味覚の施しで物事を計っても、それは、充分美味だと言えた。 「おい! おまっ……それ俺の!! 完熟卵、半分しか食えなかったじゃねえか!!」 「……結局、あんたにはハーフがお似合いって事だよ。ごちそうさん」 「──んな事言ったって、俺だってちゃんとおやっさんに認められてきたんだからな!」 翔太郎がそう大声で反論した。彼は、元の世界にこそ帰れなかったが、死んだ鳴海壮吉と同一の男に出会い、彼に認められた充足感の余韻に浸り続けている。だからか、ここに帰ってから、何かと「おやっさん」の話題を出す事が多くなった。 死者としての話題ではなく、今も生き続けている生者という認識が一層強くなったのだろう。 だが、実際のところ、こうして普段の翔太郎を見ていると、そこにはハードボイルドの欠片も見られない。──鳴海壮吉という男について、結局杏子は知らないままだが、彼が憧れるハードボイルドが今の翔太郎のような男ではなさそうだ。 彼が、その外側まで「ハードボイルド」になるには、まだずっと時間がかかりそうである。 「だいたい、わざわざチャーシュー麺を頼んでおきながら卵から食べるってなんだよ」 「はぁっ!? 俺は完ッッッ……全に、熟したハードボイルドな卵が食いたかったんだよ! チャーシューを頼んだのは──」 食べ物を巡る二人の痴話喧嘩を、呆れ半分面白半分で眺めていた各々も、そのすぐ直後、翔太郎の向井に座ってカレーライスを食べていた響良牙の一言で、静まった。 「──おい、翔太郎。俺にも聞かせろ。……何故、わざわざ俺の前でチャーシュー麺を頼んだ?」 彼もその時、カレーライスを食べる手を止め、翔太郎に視線を合わせた。 妙に冷静に、しかし、明らかに強い口調で、眼前の翔太郎に上半身だけで詰め寄り始める良牙。 翔太郎は、座りながらも上半身だけ背もたれより後ずさり、良牙の威圧感に冷や汗を流す。 「チャーシュー麺は、“ブタ”だよな?」 既に答えが出ている問いを、あえて確認して念押しするように言った。何か言い知れぬ怒りを覚えているようにわなわなと震えている。──無理もない。 翔太郎は、良牙の方をまっすぐに見て、出来る限りのキメ顔で言う。 「そうだぜ!」 「──つまり、それは俺へのあてつけか!?」 良牙が、翔太郎に対して、堪えきれずに憤怒した。 すぐに、茶色がかったスプーンにがっついて最後の一口を食べきった良牙は、立ち上がるとトタトタと歩きだし、すぐさま翔太郎の胸倉に掴みかかった。いつもの調子ならば机を叩きつけていたところだが、そんな事をすればこの長い机一列に乗っかっている昼飯全てが無になる。 良牙なりに冷静に怒りを燃やしたつもりだった。衝動的に怒ってはいけない。──そう思って心を落ち着かせる為のスプーンの一舐めだ。 そんな良牙の自戒を知ってか知らずか、翔太郎が、チャーシューを一切れ掴み、良牙の口元に向けて差し出していた。 「……美味いぞ、良牙。お前も食うか? それ、あーん……」 「食えるかっ!」 ──何せ、この響良牙は、つい最近まで「豚」をやっていた身なのだ。 どうも、豚を見ていて愉快な気持ちがしない精神がこびりついている。わざわざ目の前で豚肉の料理を食べるのはどういう了見だ。 まして、よりにもよって、雲竜あかりと会った後に。 「──待て! 冷静になれ、Pちゃん、なっ?」 良牙が後ろを振り向くと、良牙の肩に手を乗せ、にやけ面を見せている涼村暁の姿があった。普段なら気配に気づくような良牙ですら、いつ彼が後ろに回り込んだのかわからなかったが、まあ彼も気が立っていたせいがあるのだろう。間違っても、暁が武道の達人なわけではない。 ……しかし、宥めようとした暁の一言は良牙を更に怒らせた。 「誰がPちゃんだっ!」 これも当たり前である。 あからさまにからかっているとしか思えないこの暁の口ぶり。「Pちゃん」という呼び名はとうに捨てられたはずだが、未だ良牙はあかね以外にこう呼ばれるのを気に入らない。 「悪い悪い。間違えた。……だがな、響少年よ。このバカ探偵に、お前をからかう意図なんてあるわけない。こいつは根っからのバカなんだから」 「あ、こら待て! バカ探偵はむしろお前だろ! 俺はハードボイルドな名探偵の──」 横入りして暁に異議を唱える翔太郎。 だが、暁は、そんな翔太郎の口をがばっと押え、すぐに椅子を降りて、二人だけで耳を貸すようにしてひそひそと話し出した。その動作もまた早く、翔太郎も一瞬は呆気にとられたようだが、とりあえず小声で暁に悪態をついた。 (誰がバカ探偵だコノヤロ……!) 翔太郎は、暁に小声で囁く。 暁はふと後ろを振り向き、怪訝そうに見守る良牙たちの目を笑顔のウインクで誤魔化しながら、話を続けた。 (──まあまあ、抑えろ抑えろ。なあ左、あいつにあんなに可愛い彼女がいた罪は重いぞ。もっと思いっきりからかってやれ) (言われなくてもやってるんだよ、俺は……! なんでお前はチャーシュー麺を頼まなかったんだ? ああ?) (だってチャーシュー麺は野菜が入ってるだろ! ネギ!) (ガキかっ!) まさに二人とも、良牙を相手にムキになって小さい嫌がらせをする子供そのものにしか見えないのだが、両者だけで話したが為に、それを突っ込む人間はいなかった。 もしかすると、勘の良い者──たとえば、涼邑零などはそれを聞いていたかもしれない。彼は席に座ったまま、腕を組んでその光景をにやにやと見つめるだけで、別段、何か口を挟む事はなかった。 「……良牙の兄ちゃん、あれ絶対何か企んでるぜ」 「言われんでもわかっとるわい!」 杏子に忠告されずとも、あからさまに良牙の方を見てひそひそと会議する翔太郎と暁の姿は、ひたすらに怪しいだけだった。 鈍い良牙であっても、それに気づかないはずがないほど露骨な態度である。翔太郎の方が突然良牙を見て目を光らせたり、暁が突然笑い出したりするので、良牙も気が気ではない。 何を言われているのか気になり、問いただそうとした所で、高い聴力でそれを耳にしていた零が、ようやく口を挟んだ。 「──あいつら二人とも、お前に可愛い彼女がいた事を妬いてるんだよ」 全員の視線が、零に集中した。 涼邑零は、その状況の全てを知った上で、その光景が続くのが面白いから、放置して楽しんでいたのだった。 彼は、全員が一食分しか食べていない中、五皿分ほどの飯を平らげ(彼曰く、「今日は食欲がない」らしい)、食後のデザートを決めようと考えていた最中なのである。──だが、そんな中で面白い喧嘩が始まったので、そちらに数秒だけ注目していたわけだ。 零に図星を突かれた二人が固まる。すると、良牙が零に訊いた。 「……あかりちゃんの事か?」 「ああ。でも、その事で妬いてる人は、もう一人いるかもね」 『──しかも、この中にな』 零と魔導輪ザルバが悪戯っぽく笑うと、良牙は、きょろきょろと周囲を見回した。 別にあかりとの事を、誰が妬いていようが関係ないが、こう言われてしまうと少し気になったのだ。 ざっと見て、ここに集合している男は、翔太郎、暁の他には一人──零だけだ。 「……お前しかいねえじゃねえか」 「そうだったりして」 零が、にこにこと満面の笑みで返した。──いや、本気とは思えない。 だが、まるで謎かけのような言葉には裏の意図があるようにも思えた。 「……」 「……」 「ははは」 「わははははははははは……」 ──だが、やはり零特有の冗談だろうと思い、良牙はにこにこと冷や汗入りの笑みを返して、気を静めた。何故か、零に弄ばれている感じがして、これ以上怒るのは恥ずかしい気がしてきたのだ。 ただ、翔太郎と暁の方をキッと人睨みすると、良牙は再び、自分の座っていた席に戻り、米一つ残さずにカレーを食べ終えた皿を返却口に返しに行った。足取りは乱暴だ。 「まあいいさ! 俺にあんなに可愛い彼女がいた事を嫉妬しちまうのは仕方ないかもしれないな!! いやあっ、もてる男はつらいぜ!! わはははははははははは」 わざと大声でそう捨て台詞のように高笑いしながら歩きだした。妙に胸を張り、心の底から自慢気にも見える。食堂の視線が良牙に集中し、ひそひそと笑いが起きている事など彼は気づいてもいないらしい。 そんな調子の良い彼の姿に食堂中が注目している中、翔太郎と暁は、ほぼ同時に、あからさまに不愉快そうな顔で舌打ちをした。 「──なんだか、こうして見ると、彼らに世界の命運がかかっているとは思えませんね」 「あはは……私もちょっと思ったかも……」 レイジングハート・エクセリオンとヴィヴィオは、そんな一連の様子を見て、一言ずつ、冷静に告げる。 レイジングハートは二皿を何とか食べきったあたりだ。──色々食べてみたかったのだが、先日、食堂のバリエーションをある限り食べようとして、「人間の腹に入る食べ物の量には限界がある」、「まだいけそうだと思っても駄目な時は駄目だ」という事実に途中で気づき、残り物を食堂にいるクルーに諸々のお裾分けした経験がある。 今日も、チャーハンと牛丼で二皿食べる事が意外とぎりぎりである事を悟り、それだけを頼み、何とか平らげたところであった。 とはいえ、我慢半分に食べている人間もいれば、流石に我慢しきれないタイプもいた。 たとえば、ここにも。 「────すみません。御馳走様です」 花咲つぼみは、両手を合わせて、申し訳なさそうにそう言った。 彼女は、オムライスを頼んだのだが、三分の一ほどの量が残ってしまっている。元々、精神的にも肉体的にもそこまで頑丈ではない彼女は、この状況下、あまり食欲も出なかったのだろう。 杏子が、その様子を目にして一言言った。 「ん? 結構残ってるじゃないか」 「……ごめんなさい。あまり食が進まなくて」 つぼみなりに、残さないように奮闘した方なのだが、胃の容量も限界となると、掻きこもうにも吐き気に負けて入らなくなる。早い内にそれくらいの段階まで来ていたので、半分以上食べてみせただけ偉いと思える。 食べ残しにうるさい杏子も、ここ数日のクルーの食べ残しに対して、あまり咎める様子はなかった。多少、眉を顰めつつも、やはりつぼみには性格的にも悪気はないし、広い心で許すしかないだろう。 杏子は、つぼみが、普段、西隼人が配給するドーナツも快く受け取り、間食としていくつか──多少口に合わず、食欲がなくても、ちゃんと食べていた事を杏子は知っている。それも彼女の腹が膨れた原因の一つかもしれない。 「……まあ、仕方がないか。ここんとこ毎日、誰かしら少しは残すしな」 それに、先日のレイジングハートに比べればずっとマシだ。 杏子も──普段、菓子を口にしている事が多いとはいえ、極貧生活で縮こまった胃は、時に易々と限界に達する事があった。残すしかない気持ちはわかる。 時にストレスが、食事を拒絶する事もやむを得ない話だ。 「──ん? つぼみ、それ残すのか?」 と、そんな時に、丁度、良牙がカレーの皿を返却して帰って来た。手ぶらで自分の席に戻って来ようとする時、丁度、つぼみがスプーンを置き、杏子が何か言っているのが良牙の目に見えたのだろう。 見れば、オムライスがまだ結構残っていたので、それを気にしてみせたわけだ。 つぼみは、そんな良牙の顔を一度見てから、少し視線を下げて、答えた。 「え、ええ……勿体ないですけど。口をつけちゃいましたし」 「……いいよ、そんくらい食ってやる。俺も、元々カレーかオムライスかで迷ってたからな。まあ、ちょっと口をつけてたくらいはどうってことないだろ」 「そ、そうですか!? じゃあ、すみません! ……お願いします」 すると、良牙がつぼみの皿とスプーンを横取りして、そのままつぼみの食べ残しのオムライスに舌舐めずりした。 良牙も食べようと思えばいくらでも口に入れられる元気の持ち主だ。元々、あかねの料理など、良牙の人生には食を強要される場面も多く、胃が常人の比ではないほど鍛えられていた。──脳天に突き刺さるほど不味い飯ですら完食できるほどだ。 それに比べてみれば、ここの食堂の飯は並より上。いくらでも入る。 つぼみの食べかけのオムライスに、つぼみが使っていたスプーンを入れ、良牙もまずは最初の一口分を掬いだすと、それを口に入れようとした。 「間接キッス……」 「……だな」 翔太郎と暁が、そんな様子を、至近距離からじーっと見ていた。二人は、良牙の顔の近くまで顔を接近させていく。 それどころか、零や杏子やレイジングハートまでも、良牙がオムライスを食べ始めるのを間近で見ようと、顔を近づけていた。 その妙な威圧感で、良牙はスプーンを止める。良牙の顔には汗が滲んでいた。 「……」 刹那、「ばっこん!」と音が鳴る──。 「──食いづらいだろぉが!!」 良牙が頭に怒りのマークを浮かばせながら、翔太郎と暁をアッパーで吹っ飛ばしたのだ。「ちゅどーん」という音と共に、両手十指の中指と薬指だけを折った翔太郎と暁が空の彼方(※すぐ上が天井)に吹っ飛んでいった。 杏子とレイジングハートは元の性別的にも女なので殴らず、零は実力差ゆえに殴らずおいた。──そもそも、良牙がこの時、突発的な怒りを覚えたのは翔太郎と暁だけだ。 「まったく……」 「あはは……」 良牙は、何となく少しだけつぼみの方を一瞥した。彼女は、別段恥ずかしがる事もなかったが、多少は照れたように笑って誤魔化していた。 それで、良牙はあまり気にせずに、オムライスを口に入れ始める事にした。自分の態度を考え直すと、良牙の方も少し照れて視線を逸らしたかもしれない。 もしかすると、つんとした態度と受け取られ、気を悪くしてしまっただろうか……少し、良牙もそれを気にした。 ──オムライスの味は、卵が美味しいと聞いていたが、冷めてきたせいか、普通の味であるように感じた。だが、不味くはない。 翔太郎と暁が「いててて……」などと言いながら起き上がり、先ほど呆気にとられていた者たちも安心し始め、僅かばかりの静寂があった。 二人とも、やたらと頑丈である。──良牙も別に本気で殴ったわけではないのだろう。 そんな落ち着いた空気が流れた時、ひときわ幼い声が、それを不意に打ち破った。 「────なんだか、良いですね。こういうのも」 誰の言葉かと、全員が一斉に見ると、それはヴィヴィオであった。 しばらく口を開かずに、彼らのやり取りを、どこか温かい目で眺めていた彼女の姿は、到底中学校に上がるか上がらないかという年齢の少女の年相応の様子には見えない。 却って心配になって、レイジングハートが訊いた。 「ヴィヴィオ……急にどうしました?」 「ううん。何でもない。なんだか、私たちがこれからするのは、戦いなのに……ううん、ずっと戦いをしてきたのに、ここしばらく、良い事もいっぱいあったよね……こうして見ていたら、やっぱりそう思っちゃうなって……」 戦っている真っ最中も警察署にここにいるほとんどが泊まった事があったが、こうして、取り立てて命を狙われる事もなく、このアースラで寝泊まりしているのも彼女たちには良い日々だったのだろう。 ──まだ、ここではそれぞれ一泊だが、こうして揃うと楽しく会話もできる。 蒼乃美希がいないのは残念だが、彼女を探す為に今アースラは尽力している状況だ。──死亡報告もないので、このまま探し続ければ、きっと見つかるだろうと思う。 それぞれがこの一週間足らずのうちに打ち解け合い、まるで何気ない日常のような楽しいやり取りをしている──そんな光景が、不意に、彼女にはどうしようもなく、美しく見えたのだ。それは、数日前まで自分が置かれていた状況と正反対だ。 周囲の友人や家族がいなくなり、一歩間違えばふさぎ込んだかもしれない彼女にとって、ここにいる人々は差しこんだ新しい光のようだったに違いない。 この時間もまた、ヴィヴィオには代えがたいほど楽しいひと時になった。 ヴィヴィオは、そうして懐かしさを覚えるように、遠い瞳で続けた。 「また、全部終わったら……ここにいるみなさんと会えたらいいなって。──私、今はそう思ってるんです」 それぞれが、胸をなで下ろすように息をついた。ヴィヴィオの言い分にそれぞれ、どこか共感できてしまう所があったのだ。 杏子がまさに、以前に同じような事を言った気がする。また会って、翔太郎や暁に何か奢ってもらおうと思っていたところだ。翔太郎には、「風都に来い」などとも言われていた。彼女自身、いずれきっとまた会う事になるだろうと、普通に思っている。 ただ一人、暁だけが、それを聞いて、少しだけ顔を暗くし、少し俯いた。 そんな様子を零がふと横目で見ていたが、暁はそれに気づかず、笑顔を無理に形作って、ヴィヴィオに声をかける。 「何言ってんだよ、ヴィヴィオちゃん。そんなの当たり前だろ? 男三人はともかくとして、ここにいる女の子が大人になるのをこの俺が見守らなくてどうするの?」 全てが終わったら、もう彼らに会えなくなると──そう思っているのは、もしかすると暁だけかもしれない。 誰もが、この艦やあらゆる移動手段が存在する限り、またきっと会えるだろうと自然に思っている。今はむしろ、ベリアルに勝利できるかというのが問題で、帰る事そのものに対する不安の方が大きい者の方が多いだろう。 暁の場合は、違う。 ベリアルを倒せなければ……という問題と同時に、ベリアルを倒してしまった場合、彼の世界は、消えてしまう──そんな現実が待ち構えているのだから。 それゆえの強がりだったが、ほとんど誰も彼の強がりには気づいていないようだった。彼も、自分の存在や元の世界の事は誰にも告げていない。──だから、ベリアルを倒せば暁が消えてしまう事など、誰も知らない。 「──そうだな。全部終わったら、忙しい日々が続くだろうけどさ。また、ずっと付き合い続けたいよな……ここにいるみんなで」 杏子が、暁のおちゃらけた言葉をそのままに受け取ったのか、女の子に関する話を無視してそう言った。ただ、杏子自身も、この暁という男ともきっと、また会いたいと思っている。 時が経つと自然と離れ離れになってしまう人間もいるが、自分たちはそうならないと、信じたい──そんな年頃なのだろう。だから、死なない限りは、これから誰かと会えなくなるかもしれない事など、疑いたくない杏子だった。 実際、ずっと共にいた人間や、友達になれた人間と離れ離れになる経験が彼女には多くあった。──だが、彼女は孤独が嫌いだった。 だから、他のみんなも応とするのを、彼女はどこかで待っているのかもしれない。 「……All right(その通りです)。全部が終わってから、私たちがお互いに楽しめる……些細な事でまた出会える、新しい日常が始まるんです」 レイジングハートが重ねた。杏子が、彼女の方を一瞥する。 新しい日常……という言い方は、まさに彼女らしいかもしれない。──娘溺泉で初めて女性の姿になった彼女は、これまで文化的な人間の生活を知る事なく生きてきた事になる。だからこそ、彼女の前ではまた新しい日常が始まっていくわけだ。 食べる事が刺激であったように、これから幾つもの刺激が待っているだろう。 「じゃあ……その時、私たちの関係は、やっと“殺し合い”じゃなくて、“助け合い”に── “変わる”んですね」 つぼみは、ふと、何か思いついたように、レイジングハートの言葉に付け加えた。 ──「変わる」という事。それは、彼女が殺し合いの最中もずっと、気にしていた現象だ。 この過酷な数日の戦いで、あらゆるものが変わっていったのをつぼみは知っている。 ……今までの日常。今までの世界。今までの自分。今までの周囲。繋がっていなかった世界とのコネクト。信じがたい強敵との戦い。新しい仲間。 多くは、ベリアルによって、「変えさせられてしまった」物だった。 だが、今度はこの──つぼみが嫌いな「殺し合い」を変えてしまえるかもしれない、と、ふと思ったのだ。 「つぼみ。面白えな、それ。──あいつらはこの戦いを“変身ロワイアル”って言ってたが、だとするなら……ベリアルを倒したら、この戦いは、 “助け合い”に“変身”するって事か」 翔太郎が、ラーメンを食べる手を止めて、便乗した。 彼も、それを聞いた時、「変身ロワイアル」という言葉の意味が、ここに来て、新しい意味に変わってくるような気がしていたのだ。だから、直感的に、そう思った。 この殺し合いに対する認識もまた、何度も翔太郎の中で変わっていた。──「参加者と参加者」の殺し合い、「参加者と人々」の殺し合い、「参加者と主催者」の殺し合いと、順に姿を変えて行ったこのゲームも、「殺し合い」である点は変わらなかった。 だが、その根っこを変えてしまおうという話だ。──“殺し合い”から、“助け合い”に。 「俺たちを変身させて戦わせるゲームそのものが“変身”する……良い皮肉だな」 そんな風にニヒルな言い方をしたのは、デザートのティラミスを貪る零である。 彼もまた、ベリアルに反旗を翻る者の一人として、彼を打ち破る最良の策を、「殺し合いそのものを今から完全に打ち破る」という風にしてみるのも悪くないと感じたのだろう。 主催との戦いが続く限り、今はまだ、殺し合いが終わったとは言い切れない。 だが、散々「変身ロワイアル」を強要し、「変身」を利用してきたベリアルに、自らのたくらみそのものが「変身」する姿を見せてやりたいと思ったのだ。──きっと、ベリアルを倒し、彼が考えたこの殺し合いまで変身させてみせてやろうと。 「じゃあ……俺たちはその時、やっと、この変身ロワイアルっていうゲームに本当に乗るってわけだ。──今から、俺たちがこのゲームの本質を、“変えて”」 良牙も、オムライスの最後の一口を食べ終え、言った。 ──彼も、つぼみの先ほどの言葉を発端として、内心で燃え始めていたのだ。良牙自身、本来はむしろ好戦的な人間であったが、「殺し合い」という悪趣味な名目のゲームだった為に、戦いに乗る事はなかった。 だが、こうしてルールそのものをこちらから都合良く変えて、乗っかってやるのも悪くない──。 何せ、それは「殺し合い」などという彼に嫌悪を齎す言葉ではない。「助け合い」……ずっと良い響きではないか。 こうして、納得のいくルールが決まった時、一人の男として、「守りたい」や「戦わなければならない」に縛られない「楽しみ」を見つけ出せたのかもしれない。──良牙自身の性格に最も合致した戦いに。 「──じゃあ、この戦いが、ちゃんと助け合いに“変身”できたら、みんな、またこうして一緒にご飯を食べたりしましょうよ。そうだ……場所は風都がいいですかね。じゃあ、きっと、ここにいる全員で“第三ラウンド”に行けるように!」 ヴィヴィオもまた、一人の武闘家として、“助け合いの未来”へと勝ち進む事を祈っていた。ヴィヴィオとつぼみの一言は、思わぬ目的を生みだしたわけだ。 変身ロワイアル──その第三ラウンド。 そこに進出する為に、今からベリアルを倒す。 そう、──そこから先が、延長戦になるという事だ。 ◆ 時系列順で読む Back インターミッションNext BRIGHT STREAM(2) 投下順で読む Back インターミッションNext BRIGHT STREAM(2) Back RISING/仮面ライダーたちの世界 左翔太郎 Next BRIGHT STREAM(2) Back Tomorrow Song 花咲つぼみ Next BRIGHT STREAM(2) Back あたしの、いくつものアヤマチ 佐倉杏子 Next BRIGHT STREAM(2) Back あたしの、いくつものアヤマチ 高町ヴィヴィオ Next BRIGHT STREAM(2) Back あたしの、いくつものアヤマチ レイジングハート Next BRIGHT STREAM(2) Back 時(いま)を越えろ! 涼村暁 Next BRIGHT STREAM(2) Back 虹と太陽の丘(後編) 響良牙 Next BRIGHT STREAM(2) Back 時代 涼邑零 Next BRIGHT STREAM(2) Back 時(いま)を越えろ! ニードル Next BRIGHT STREAM(2) Back 覚醒!超光戦士ガイアポロン(Cパート) 吉良沢優 Next BRIGHT STREAM(2) Back あたしの、いくつものアヤマチ 美国織莉子 Next BRIGHT STREAM(2)
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BRIGHT STREAM(3) ◆gry038wOvE 【破】 ──それから、ニードルによる襲撃が行われたのは、夜だった。 時刻は、「五日目」が始まりを告げる頃である。──午前0時、きっかり。一つの作戦として、決行時刻までが定まった計画性のある襲撃のようだった。敵方集団がカウントダウンまで行い、妙に盛況していたのはまさにそれゆえだ。 ニードル一派はこの瞬間を、暁の動向を観察し始めたその瞬間から心待ちにしていた。 ≪WARNING!!≫≪WARNING!!≫≪WARNING!!≫ ≪WARNING!!≫≪WARNING!!≫≪WARNING!!≫ ≪WARNING!!≫≪WARNING!!≫≪WARNING!!≫ 異物の侵入を認めた艦は、必死に警告音を流し続けた。 ニードルは、何事もないような暢気な表情で天井の隅を見上げる。 そして、再度真正面に向き直った彼は、自分の周囲にいる全体の一握ほどの部下にだけ、意味もなく、命令を告げた。 「……さて、思う存分暴れてください。それがあなた方の任務です」 「イーッ!!」 アースラの内部に、九つの時空魔法陣が開眼し、そこから武装された怪物たちが召喚され、活動を始める──。 ニードルたちの目的は、アカルンを利用した時空移動システムの破壊と、この場にいる生還者及び吉良沢優らの殺害にあった。しかし、それだけではなく、彼個人が悦に浸っている素振りもあった。 足止めの為に再生された数千の怪人軍団は、三分が経過しても未だに入り切れずに時空魔法陣から放出されていった。 アースラのシステムはそれから三分以内にその異常を確認し、艦内全域に放送を始めた。 ≪WARNING!!≫≪WARNING!!≫≪WARNING!!≫ ≪WARNING!!≫≪WARNING!!≫≪WARNING!!≫ ≪WARNING!!≫≪WARNING!!≫≪WARNING!!≫ ≪WARNING!!≫≪WARNING!!≫≪WARNING!!≫ 艦内に響いた音が、眠りかけていたクルーの六割の目を一瞬で覚まさせる。 生還者余名がベリアルの元に向かう予定日は、明後日(あくまで感覚的に。日付的には明日)──六日目だった。一日だけ準備の猶予があるとはいえ、それまでにある程度規則的な睡眠をしてコンディションを整えようと、それぞれ寝床には付いていた状況だ。 しかし、彼らも、うつらうつらとしながらも、やはりすぐには眠りにつく事ができず、多くはあくまで“眠りかけ”と言っていい。 日付変更と同時の警告音がそんな彼らの頭を冷やし、それぞれを慌てて部屋の外に出すに至った。近くの部屋にあった生存者余名は互いに寝間着のまま顔を見合わせる。全員が同じ行動を取ったようで、未だ眠り続けている者は誰一人いなかった。 『艦内に敵勢力が侵入! 艦内に敵勢力が侵入! 各自警戒態勢! ロストロギアの反応があります! 指示に従って行動してください!』 絶対安全だったはずのアースラに向けられた二度目の奇襲。 だが、時空の果てまでも追ってくるベリアルたちを前に、絶対安全な領域など既に存在しないのかもしれない。それは薄々気づいていたが、なまじ一日や二日耐えただけに、安心感が芽生え始めていた。 問題は、それを外部からの攻撃を中心に考えていた事であり、内部侵入は当初から殆ど想定されていなかったハプニングである事だろう。改修時には、いかなる手段を以ても、敵はこちらの座標を確認できず、内部の結界へと入り込む事は不可能に設計していた。 だが、ニードルは暁の衣服に小型の虫型偵察メカニックでも忍ばせたのだろう。それが敵に座標を知らせ、時空魔法陣を発動させる術の一つとなった。 外は亜空間。──現状では、生身の人間には、逃げ場がない。 内部に群がる大量の再生怪人軍団たちに、既に何人かの時空管理局のメンバーがすぐさま応戦を始めた。生還者たちの寝室を守る為、まずは、戦闘要員のクルーが四方に散らばる。 夜中である為に判断能力は全くといっていいほど追いついていないものの、艦内の戦闘要員は殆ど、命令を受けて怪人たちの前に立ちはだかる事になった。 「イーッ!」 「GAAAAAAAッ!!」 「コマサンダー!」 「ナケワメーケェ!」 「ソレワターセ!!」 「デザトリアーン!」 だが、敵の群れがやって来る場所は一か所ではなかった。 ランダムに九つ作られた時空魔法陣は、ニードルに制御された再生怪人の軍団をアースラに派遣し続け、アースラ内の人員では到底片づけきれないような物量作戦を敷く。──入り口が多数作られてしまったのが問題であるかもしれない。 これまでのアースラの構造には問題はなかった。しかし、今は違う。──ベリアル側がその安全設備を打ち壊す技術を有していたのだ。 あらゆる世界の怪物たちがわらわらと現れ、アースラを埋め尽くし始めた。 ◆ 果てのないようにさえ感じる長い廊下で、切迫する艦内放送を耳に通しながら、ニードルはまだ危機感の欠片も見せる事なく歩いていた。 廊下の真ん中をのんびりと歩いているニードルの真横を、次々に、血気盛んな仲間の怪人たちが追い抜いて行く。 彼らは軒並み、殺し合いの場を待ち望んで、能動的に敵を討とうと走りだしているようだった。しかも、自分自身の死を全く恐れる事なく進んでいる。 ニードルの支配下にある事だけが原因ではなさそうだ。──彼らは、ヒーローに倒された恨みを体のどこかで捨て去っていないのだろう。こうして蘇っても尚、彼らは悪役としての矜持に満ち溢れ、魂でヒーローへのしみを忘れない。死は最初からリスクに入っていないのだろう。 仮面ライダーたちと戦う、「BADAN」の怪人同様だ。 だが、ニードルはこんなにも使い勝手の良い駒を持ちながらも、それだけで不満足に感じる、渇いた心の持ち主だった。 だからこそ、彼はある準備を怠らなかったのだ。 ある意味、秘密兵器でもあり、彼の新たな実験材料の一つでもあった道具を実験する最後の機会が今であると思っていた。 ここから先は、ベリアルからの命令は足枷にしかならない。 この最後のミッションで、ニードル自身が、自分の意思で『遊んでみる』のも良い。彼もまた、バトルロワイアルの観客の一人として、自分自身の見られなかった残りの因縁を全て、見届けるのを待ち望んでいるのだろう。 不服に終わった試合もあったからこそ──自分よりもまず、他人の手腕を頼ろうとした。 「闇の欠片……さて、効果はいかほどでしょう」 ニードルが手に入れた『闇の欠片』。 それは、「闇の書」から生まれ、一つの事件を起こしたロストロギアだ。「記憶」を再生し、それに形と意思を与える──ゆえに、死者でさえもコピーし、生者の目の前に再現するという恐るべき遺物であった。 これによって発生した『闇の欠片事件』は、高町ヴィヴィオやクロノ・ハラオウンも関わった出来事であったが、タイムパラドックスを回避する為に管理局内で記憶消去が行われ、現在は彼らの記憶上には事件の記憶はない。時空管理局内に記録が残っているのみで、影響のない時代に行きつくまで、殆どの現代人には封印され続けるデータとなろう。 しかして、ニードルはベリアルの力によって、それを複数個得て、「島」の記憶をこのアースラ内部に発動し、生き残った参加者たちに混沌を齎して見せようとしていたのである。──あるいは、それが相手にとって満足に思える結果であるとしても。 主催側であると同時に、エンターティナーでありたいこの男は、──それを実行した。 「──ガドル、ダグバ、ガミオ、ノーザ、アクマロ……。ガイアセイバーズを苦しめた強敵たちの、再来です」 彼ら、BADANの中でも、ニードルの好むやり方だった。 ──死者を還らせる、というやり方は。 やがて、あの殺し合いの中で、参加者に敵対し続けた外道の怪物たちの記憶が、ニードルの手にした『闇の欠片』によって、あらゆる場所でばらばらに再生され始めた。 ゼロではなく、既にあった物から誕生していく物体は、再生が素早い。 眩い光を発したそれは、だんだんと人の形状に近づいていき、やがて、その体に色を灯し始めた。それぞれ、全く別の、しかしいずれも見覚えのある姿へと変質していく。 ン・ガドル・ゼバ。 ン・ダグバ・ゼバ。 ン・ガミオ・ゼダ。 ズ・ゴオマ・グ究極体。 ノーザ。 筋殻アクマロ。 腑破十臓。 ダークメフィスト──溝呂木眞也。 テッカマンランス──モロトフ。 仮面ライダーエターナル──大道克己。 暗黒騎士キバ──バラゴ。 プロトタイプクウガ──天道あかね。 此処にいる参加者たちを前に猛威を振るった敵の怪物たちが、アースラの隅々で再び産声をあげ始めた。 ──今度は、「命」ではなく、「データ」あるいは「記憶」として。 彼らは、死亡直前までの自分たちの思考を持ち合わせると共に、全員がまず、自分が何故こうして再び目覚めたのかわからなかったようであったが、だからこそ──自分が今いるこの場所を手探りに歩きだしたのだった。 「ベリアル……私のこのやり方、見届けて頂きましょう」 死者たちの最後の記憶が生み出した、『彼ら』は、果たして、いかなる行動をした後に消えていくのか──ニードルはそれを想った。 そして、この『遊び』が決してベリアルにとって不利益を齎す物でもなく、むしろ──この「アースラ」を沈める為の有効手段となりうる事をニードルは何となく予測していた。 どうなるか、はわからない。 しかし、今は傍観者として見届けよう──。 ◆ 高町ヴィヴィオ、レイジングハート、左翔太郎、花咲つぼみ、佐倉杏子、響良牙、涼邑零、涼村暁の八名は、長い廊下を走り、とある場所に向かっていた。 その先頭には八神はやてがいる。──彼女がクロノに代わり、「騎士甲冑」を装着したまま、彼らを案内しているのであった。 誰の表情の中にも、余裕はない。今はまさしく、アースラの命運がかかっている状況である。このまま敵の襲撃を上手くまけなければ、時空の狭間で全員が迷子にならないとも限らないという。──だとすると、おどけて勇気づける場面でもなかった。 ばらばらな足音は、却って妙に規則正しく聞こえていた。やがて、それも自ずと誰かの足を踏むリズムと重なり合い、一斉に同じペースで踏み込む音として溶け込んでいく。 はやての指示に従い、彼らは安全なルートを走っていった。 ──尤も、この警告音が鳴り始めて、十二分が経過した現在、管制室でさえ占拠され、安全なルートこそあっても、安全の保障されたゴールはどこにもなかったのだが。 結果、数秒後には、前方の安全確認が取れず、何もない廊下の上で、苛立ちながら立ち往生する形になってしまうのだった。 各々は、狭い箇所で固まりながら、はやてにブリッジからの連絡が来るのを待った。しかし、依然、混乱は激しく、なかなか情報が回ってこない。しばし立ち往生だ。 「くそっ……こんな所まで見つけてきやがって!」 涼邑零が、悪態をつく。 彼は、これまで最後尾について、他に比べて体力がないつぼみをフォローしていた。敵に姿を確認され、追尾された場合でも、零が仲間への攻撃を防げる形になっていたのである。 勿論、彼ならば並大抵の相手では手を出す事が出来ない。余程の実力者でもない限りは、零に襲い掛かった時点で、触れる事もなく返り討ちに遭うだろう。 ただ、敵方にホラーはいなかったようなのが不幸中の幸いであった。──もしホラーが相手ならば、それこそソウルメタルを扱える零しか倒す事ができなくなってしまう。今も活路を開くために戦闘を続けているクルーたちの中にも魔戒騎士はいないので、それこそ戦闘が厳しくなるだろう。 侵入者にはホラーを使役する事へのリスクが、ホラーを使役するメリットに勝ってしまったに違いない。おそらく、侵入者自身はホラーとは無関係の存在だ。 そして──彼らの中でも、襲撃者については、おおよそ答えは出ている。 「……侵入者の首謀は?」 「おそらく、……ニードル」 「間違いないんだな?」 ──暁が、再三の確認のように、はやてに問うた。 実際、はやてが既に首謀者がニードルらしいという事実は映像によって確認していたし、それは既に報告されている。 これ以上、別にそこを疑う余地はないと思われたが、そんな報告に対しても、暁は不審げだった。 暁を逆に怪訝そうに見つめながら、はやてが答える。 「ただ、ニードルだけとは限りません。しかし、確認が取れているのはただ一人。何らかの方法でこちらの座標を見つけ、この時空に立ち入った可能性が高いです」 「そうか……」 暁は溜息を吐く。何か、後ろ暗い事でもあるのだろうか。 彼がニードルに固執する理由は、バトルロワイアルの真っ最中では特にない。同一世界出身というわけでもないので、一層不可解であった。 しかし、この状況下、そんな細かい暁の所作を気にした者は少なく、すぐに杏子が横から口を挟んで言った。 「だけど、これだけの数に来られたらリーダーが誰だろうと関係ないな、もう。敵のリーダーを倒せば終わるってわけでもないし……」 圧倒的な物量を前にしては、多勢に無勢である。 ヴォルケンリッター、元ナンバーズ、エリオ、キャロ、ウエスター、サウラーなどはともかくとして、学院の初等部クラスの年齢のストライクアーツ選手までも戦場に駆り出さなければならないというほどの、アースラ側の逆境は覆される様子がなかった。 世界の平和の為にも死ぬわけにはならない生還者たちは、彼らに全てを任せて逃げ惑うのみで、不甲斐ない想いを噛みしめる。当面の敵とまだ遭遇してさえいないのが余計に胸を悪くした。 中でも、変身さえできない状況にある佐倉杏子と花咲つぼみは、こうして実戦の場に来てしまうと、「自分たちにこれから何が出来るか」という問題に頭を悩ませる事になってしまうわけだ。 ──いや、もしかすると、なまじ大きすぎる力を持っているばかりに、それを使わせてもらえない者の方が猛り立っているようでもあったのかもしれないが。 「──くそっ、俺たちは戦えないのかよっ! 元気はあり余ってるってのに!」 良牙は苦渋を噛みしめて壁を殴った。 それは先ほどまでのような小さな配慮は一切なく、固い壁に巨大な罅を入れるほど強く殴られる。──彼自身が持っているもどかしさだった。 コンクリートよりも遥かに硬いアースラの内壁を生身で破壊できるのは彼くらいの物だろう。 だが、全員がそれと同様の気持ちを抱えているが、良牙のこの一撃を黙って見つめた事でどこか吹っ切れたのかもしれない。その極端な力で表象された怒りは、他の者の頭を少し冷やさせた。 「万が一の事があったらあかんからなぁ……」 「……だからって! 戻るわけにはいかねえのか……!」 万が一の事があるかもしれない──そんな状況に、自分より弱い少女を立たせている現実に良牙は気づき、憔悴する。 先ほど、リオやコロナといったヴィヴィオと同年代の少女にも格闘について教える羽目になったが、そこでの実力を見るに彼女たちを怪人軍団と戦わせるというのは酷な話だ。それならば、まだ良牙一人が戦いに出た方がずっと意味があると思える。 いや、実際のところ、良牙が行ったところで返り討ちのリスクなど少ない。全世界中見回しても、彼やその世界の人間ほど鍛えられた人間はそうそういないほどだ。──怪人を相手にしても、これまで善戦してきた。 リオやコロナはそれに対し、リスクもある。死んでしまった場合、無駄死にだ。 「そんなに元気があり余ってるなら、それを目いっぱい、ベリアルの方にぶつけてや」 だが、はやては、良牙を少しでも危険な場に出す判断を下すわけにはいかなかった。良牙にも、臆する事なくそう言った。 こういう状態になってしまったからには、生還者の命がこの場では最優先になる。──そう、たとえ、秤に乗せられたもう一方が、彼女たちのような小さな少女であるとしても。 この船に乗りかかった以上、彼女たちもそれを覚悟の上でヴィヴィオに付き添おうとしているのだから。 はやて自身も、こんな判断は下したくはない。熱い魂を持つ一人の女性として、冷徹で不合理な決定も躊躇いは捨てきれないのだが、仕方がない話だった。 「……っ!」 だが、もし、それを一言謝れば、良牙も気は緩む。 悪役のいないもどかしさを良牙が感じ続けるよりは、自分が悪役になる事で彼の気分を落ち着かせておこうと思った。 だから、この場ははやては、冷たく無責任な言葉を投げかけて、彼らが持つ恨みや無力さは全て自分の胸で受け止めようとした。 「……くっ!」 良牙ははやてを殴りかからん勢いで、両手の拳を強く握る。 だが、はやての本心が隠しきれてないだけに、良牙はそこから先のアクションを起こす事が出来なかった。──勘の鈍い良牙であっても、その場に流れる空気と目の前の女性の表情が訴えるもどかしさくらいは感じ取る事が出来たのだろう。 そもそも、彼自身、元々、自分の怒りに任せて無抵抗の女性を殴るほど、強さと暴力をはき違えてはいない人間だ。 「……っ」 ──良牙は、結局、はやての意図した通りにはやてを憎み切る事はしなかった。 むしろ、正反対だ。力を抜き、怒らず、少し竦んだように見えた。警告音が鳴りやまないが、その一刻を、良牙を哀れみ見つめる視線が鎮めた。 はやての考えは、どうやら裏目に出たようだ。結果的に彼の戦意を奪ってしまった。 はやては、それから少々ばかり優しい声で良牙の名前を呼んだ。 「……良牙くん。あなたたちに、世界が全部かかっているのを忘れないでください」 「……」 だが、──そのすぐ後に、良牙は蚊の鳴くような声で一言呟いたのだ。 それは──「悪い」、という言葉のように、聞こえた。他の者にはどうだかわからないが、はやての耳にはその一言が聞こえた。 それが謝罪の意味であるのは確かだが、言葉通りの謝罪の意思であるようには聞こえなかった。 「──……っ! でも、それなら、悪いが、あんたたちとは一緒に行けねえ。あんたの気持ちはわかるが、俺は俺の道を行ってやる!」 良牙は、すぐに、険しい顔でそう宣言した。 立ち上がり、引き返す心を決めたのである。 ──それは、良牙のお人よしな性格による物であった。そして、いざという時に自分の意思を最優先する、ある種身勝手な性格による物でもある。……彼は、周囲が見えなくなる事は多々あれど、小さな子供を見捨てるほど狭眼ではない。 「……!」 良牙のその時の剣幕に、はやても悪役でいる事を諦めそうになり、一瞬、反論の言葉を失った。──言葉が喉の奥で詰まったのだ。 その隙、だった。 また、誰かが、良牙の近くに添うようにゆっくりと歩きだした。革靴が床を踏む音が警告音をひとたび掻き消す。その男が、良牙に言う。 「──……よく言ったぜ。良牙……俺もそう思っていたところだ。それに、お前一人で行かせたんじゃ、迷子になるしな」 はやてが何か言う前にそう付け加えたのは、黙ってその様子を見ていた翔太郎であった。 彼も良牙の一言によって、何か決心がついたようであった。──彼もまた、はやての命令と自分自身の意思を天秤にかけ、自分の道を選ぼうとしたのだろう。 「……っ!」 このまま行けば、歯止めが効かなくなる──と、はやてはその時、察知した。 険しい顔で、良牙と翔太郎のもとまで詰め寄るはやて。 「駄目ですッ!」 今の彼らは、はやての権限よりも、個人の感情に傾き始めている。だからこそ、今度は、前に一歩出て、良牙と翔太郎の頬を、思い切り平手打ちした──。 ────パンッ!、と。 渇いた音が鳴り響く。 良牙と翔太郎の頬に痛みが伝導する。 はやての右手の掌が赤くなる。 「はやてさんっ!」 ──周囲がざわついた。 ここまで見てきたはやての性格と、少し異なった態度であったからであろう。責められる事を覚悟の上での行動であったが、はやての表情は、ここにいる全員に向けられた怒りのまなざしに変わった。 「……みなさんには、これからベリアルと戦いに行ってもらわなきゃなりません。敵の強さもわかっていないのに、こんな所で無駄骨を折らせるわけにはいかないんです」 敬語に変えたのは、翔太郎がはやてよりもおそらく年上であったからというだけではない。自分自身が折れない為でもあり、正式な命令である事を強調する為でもある。 それが自分に出来る唯一の、権限の象徴化だった。翔太郎に力では勝てないが、この場での権威というならば別である。一時的にでも時空管理局の傘下に入ったからには、その組織の命令を逐次聞かなければならないはずだ。 しかし、翔太郎は、赤みがかった左の頬を撫でながら、はやての瞳を見据えた。 「悪いけど……。俺ももう、小さい子供を置いて逃げるのは御免なんだ」 「……フェイトちゃんやユーノくんの事ですか」 「ああ。俺は、ガドルに負けて、あの二人に任せて逃げる事になっちまった」 残念ながら、翔太郎は、「組織」に属する人間ではなかった。それどころか、私立探偵という至極自由な身である。自分で決め、自分で行動するハードボイルドを目指す男だ。 だが、──そんなハードボイルドが、何度、この世界の子供を盾に生き残れば済む事になるだろうか。それは、翔太郎の悔いだ。 結果的に、関わっただけでも、フェイト、ユーノ、アインハルトと三人も、未来ある子供を死に至らしめたわけだ。下手をすれば、はやても変身能力有者である以上、ベリアルに目を付けられていれば、あそこで死んだ少女たちと同じ運命を辿っていたかもしれないだろう。 「──あの事をこれ以上気に病んだってどうしようもないって事くらいはわかってる。だが、これ以上同じ過ちを繰り返すのは、もっとどうしようもない」 「なら、あたしも行くよ」 杏子が少し前に出て、言う。 ──思えば、翔太郎と杏子はあの時、共に行動していたのだ。 「……杏子」 「その理屈で言うなら、あたしだって同じだろ。いや、むしろあたしの方がその原因に近い。……戦えなくても、避難誘導くらいなら出来るだろ?」 翔太郎同様、この状況にあの瞬間の事を重ねていたのだろう。不安げな表情というか、後悔の念を未だ捨てきれない表情で、袖を握って言う。脇を見て、視線を合わせる様子はなかった。──何故なら、翔太郎を逃がしたのは他ならぬ彼女なのだから。 しかし、あの時、杏子に後悔の念が襲った事は、確かに今に繋がっている。杏子自身もあの判断によって助けられ、今に至るのだが、──それでも、誰かを餌に生き伸びる時の後悔に勝る痛みはない。 拭い去れない過去。そして、フェイトという犠牲。年下の少女を利用し、戦いに連れ立った自分の卑屈さ。──それを思い知る。 杏子には今、変身能力がない。だというのに、意志は固かった。 「いい加減にしてください! あなたたちが過去の自分に出来なかった判断を下したいのはわかります。でも、今はあなたたちにコロナやリオを信用してほしいんです! あの子たちが勝つ事を!」 「じゃあ負ければどうなるんだよ!」 「……それは」 死ぬ。──そのリスクは充分にある。フェイトたちがそうであったように。 現在はまだ死亡報告はないが、これは彼女たちがやって来たストライクアーツの領域を超える殺し合いである。参加者ではないが、その組織に巻き込まれてしまったわけだ。 言うならば、一介のスポーツ選手が軍人との戦争に参戦するような物で、いかなる強さを持って居ようとも、それが必ずしも殺しを目的とする相手に通用するとは限らない。まして、彼女たちはまだ小学生、中学生相当の年齢だ。 強さも判然としない敵に立ち向かわせるのは、決して正しい判断とは言えまい。 だが、力の程度に関わらず、戦力となりうる物は全て足止めに使わなければならないのが今のこの艦の状況だったのだ。 すると、── 「八神艦長、人は強くなけりゃ生きてはいけない。だけど、優しくなけりゃ生きている資格はない。──……あんたは生きてる資格がある奴だと思うぜ。でも、俺たちはあんたの想いを振り切って、行く。……だろ? 良牙、杏子」 ──翔太郎は、そう訊いた。良牙と杏子は黙って頷いた。 依然、警告音が鳴り響き続け、その場の沈黙を赤いサイレンランプが周回して彩り続けていた。 「翔太郎さん、良牙さん、杏子さん……」 ヴィヴィオのような元の世界の知り合いは、コロナやリオを信頼してもいる。そして、はやての指示に抗うにも不相応な気分である事を理解している。 だが、代わりに誰か、同じように信頼できる人間に無事を確認してきてほしいと思うのもやむを得ない事であった。 ヴィヴィオとレイジングハートは黙って見守る。つぼみや、零や、暁の場合は、翔太郎たちに一定の信頼を置いていたゆえ、別段、彼らに付き添う事もなく、彼らの背中を見守ろうとしていた。彼らも頷くような素振りを見せ、見送ろうとした。 「……だから、そういう事だ。俺たちは行く。でも、すぐに戻るからな!」 ──それを合図にしてか、翔太郎たちは駆け出そうとした。 いや、既にその視線ははやてたちの方にはない。 「……」 はやては、その言葉と行動に何も言い返す事ができなかった。──ただ、その背中を見た時には、ほんの少しむしろ彼らこそが英断となる可能性があるのを信じるように揺れる心が芽生えた。 あくまで、翔太郎たちを行かせられないのは「リスクの回避」なのだから。──それは、「死亡の回避」ではない。 だが、もしかすれば、「リスク」は「死」に繋がってしまう可能性はある。だからこそ、行かせられなかった。 「……」 いつの間にか、はやて自身の心の甘さは、彼らを危険地帯に向かわせる事を選ぼうとしていた。 ある意味では、はやても、彼らにそんな期待をしていたのかもしれない。 遠ざかっていく。 はやての前で、彼らの背が──。そこに、何か一声でも先にかけようとしたのかもしれない。はやては、それを肯定するか否定するかはまだ判断していなかったが、せめて一瞬でも彼らを止めて、そこに何か後から言葉を乗せようとしていた。 待て、と。 しかし──そんな時であった。 「──待てよ、お前ら」 そんな彼らの前で、ある男が止めに入ったのだった。 はやてのでかかった言葉を遮るように。 だが、それは、はやての告げようとした言葉を借りるように。 「──お前らだよ、仮面ライダーダブル……そして、響良牙」 始めは声だけが聞こえ、思わず翔太郎たちの背は、はやてたちの目の前で立ち止まった。 それを確認したのか、その声の主は、廊下の角から、まるでその場に隠れていたかのように現れたのだ。 「……!?」 そうして現れた「声の主」の姿に、誰もが驚くと同時に、わが目を疑った事だろう。 ──一度、良牙の方を見て、再度、そこにいた者に視線を合わせた。 「……お、……」 まだ翔太郎たちの背中を見つめていた者たちの視界にも、その男の姿が焼きつけられ、そして──時が止まった。 めいめいが背筋を凍らせたのだが、中でも良牙とつぼみはその姿を信じられないと思う気持ちが強かったのだろう。二人は、心臓さえ凍らせた。 「お前は──!!」 そこにいたのは、白い体色、黄色い瞳の細見の戦士であった。 黒いローブを羽織り、響良牙がこれまで変身してみせた「仮面ライダーエターナル」そのものな恰好をしている。 ……いや、彼こそが、「仮面ライダーエターナル」なのだ。 ──その低い声は間違いない。良牙とつぼみを本能的に震わせ、騙させる感覚。 「──エターナル……、だと!? 良牙じゃねえ……!?」 「久しぶりだなァ、お前ら」 聞き覚えのある声に、翔太郎も戦慄する。いやはや、それは間違いなかった。妙に心が納得した。 ──翔太郎も、彼を、知っていた。 それも、尋常ではないレベルで。 「……人とメモリは惹かれあう、か。なるほどな……俺も何となく立ち寄っただけで、懐かしい奴らと……新しいエターナルと会えたわけだ」 そんな独特の口調で、それぞれが確信を抱いた。 だからこそ、わけがわからなかったのだろう。──その男は、翔太郎の記憶の中では、三度も死んでいるはずだった。 「大道……」 一度、非業の交通事故で死に。 一度、仮面ライダーダブルに倒され。 一度、仮面ライダーゼクロスと相打った。 「克己……!」 そんなかつての仮面ライダーエターナルの変身者──大道克己と、殆どが同じだったのだ。それが現実に目の前にいるという事を知って、翔太郎たちは固い息を飲み込んだ。 良牙たちが、信じがたいといった様子でエターナルに言葉をかけた。 「何故、貴様がここにいる……!?」 「大道……地獄から迷い出たかっ!」 「地獄──? いや、今の俺は死人ですらねえ。ただの記憶のデータの集合さ。どういうわけだか、そいつが俺を再生しているらしい。つまり、お前の相棒と同じさ」 良牙と翔太郎が、並んで立ち止まり、構える。 未だ、彼への警戒心は解けないままだ。──エターナルがいるならば、まだ別の戦士がいるのではないかという想いも湧きあがった。かの、怪人軍団に紛れて、想わぬ大物が釣れてしまったらしいと見える。 それを見ていたはやてが、もしかすると──あるデータとその存在が合致するのではないか、と感じた。 「この反応……まさか──『闇の欠片』かっ!?」 誰もが、はやてに注目した。 はやてが口にしたその情報に、ヴィヴィオやレイジングハートまでも当惑した様子だった。──“名前”だけは、確かにどこかで聞き覚えがあるのだ。 彼女たちも、かつてその名を聞き、それが起こした重大な事件に関わったような心持さえする。 「闇の欠片……?」 「……記憶から形状をコピーして、人格を再生するタイプのロストロギアです。時には、遠い過去の人格が再生されたり、裏の人格が再生されたりする事もある……!」 はやて自身が、非常に切迫したようにその説明をした。 確かに、ヴィヴィオやレイジングハートもまた、あるいは──その効果を、どこかで実感していたのかもしれない。何となく想像の通りだった。 それは遠い記憶の彼方に閉ざされており、決して開かれる事はなかったが、目の前に仮面ライダーエターナルに対しても、──エターナル自身には会っていないというのに──奇妙な懐かしさを覚える。そのロストロギアの反応を覚えているのだろう。 ヴィヴィオの真上でクリスもまた、戦慄し、構える。 「なるほど。闇の欠片、か……。俺はそんな名前の物体でできているわけだ。──まあ、俺にとってはそんな事はどうでもいい」 エターナル自身も、自分が何故こうしてここにいるのかわかってはいなかったが、それについてこれといった執着は見せないようだった。 死者でもあった彼にはそんな気持ちもないのだろう。 良牙は、より一層身構えた。 全身の筋肉が硬直し、エターナルメモリを何の気なしに仕舞う懐に注意が向けられる。 「まさか……エターナルを取り返しに来たのか?」 「残念だが、それは違うな。エターナルはもう俺を必要としていない……そいつはお前もわかってるだろ?」 エターナルは、──いつか見た夢のように、そう告げた。 仮面ライダーエターナルの姿をしていながら、彼は記憶の結晶でしかない。腰を巻いているロストドライバーやエターナルメモリは偽物でしかなく、克己自身の記憶が「本物」の想いを尊重したのだろう。 言うならば、大道克己の亡霊の意思は、そういう発想に行きついたのだった。 つぼみが、あまり警戒する事なく、エターナルの元に近寄った。 「克己さん……」 「よう、プリキュア……お前には随分良い夢を見させてもらったな。そいつにだけは感謝してやってもいい」 其処にいるエターナルは、確かにつぼみが死に際までを見届けた大道克己その人だったようである。心には母親への微かな愛情さえ残して現れているのだろう。 しかし、それを得ても尚、彼は素直な言葉をつぼみに向けようとはしなかった。 どこか偽悪ぶった口調でもあった。つぼみは克己を信じるが、かつて彼を悪人として葬った翔太郎は信じ切れていないようだ。生身で、エターナルに詰め寄る。 「……大道。まさか、お前、また、生きている人間を全部、お前と同じ死人に変えるなんて言わねえよな。だとしても、俺たち仮面ライダーやガイアセイバーズが──」 「だから、さっき言っただろう。今の俺は死人ですらないと──大道克己を模した、大道克己とは別の、いわばデータ人間さ。俺に生者を死人に変えるメリットはない」 「……じゃあ何が目的だ? 今度は人間を全部データ人間でも変えるのか?」 翔太郎としては、尚更、訝しむ場面であった。克己の蘇っての企みが何なのか──それによって、翔太郎は彼を再び倒さなければならない。 ロストドライバーとジョーカーメモリを両腕で持つ。 それを見ていると、エターナルの声は、照れるようにふと笑った。悪役ならではの自嘲気味な笑みが、その後の言葉の意味を、翔太郎に聞かすのを遅らせる。 「──今日限りだ。俺“たち”は、この船に乗りかかった奴らが当面の敵を倒しに向かうまで、ここにいる全員を全面的に援護し、出航を手伝う」 翔太郎だけではない。誰もその意味を一瞬では理解しなかった。 悪い意味を前提と考えた者が多かったからであろう。 エターナルは続けた。 「……まっ、そこから先に行きつく場所が地獄になるか、それとも今まで通り生きていられるかは、お前ら次第って所だな」 すると、エターナルの言葉を合図に、彼の後方から数名の怪人が現れた。一斉にその姿に注目が集まり、驚いた者もいた。 否──しかと見れば、それは、怪人と一概に言うべき相手ではなかったかもしれない。 ナスカ・ドーパント、ルナ・ドーパントの不揃いな二名が構え、翔太郎を見据える。 赤い仮面ライダーもそこに並んでいる。──誰もが姿にだけは見覚えがあった。 「お前……まさか……」 その名は、仮面ライダーアクセル。 その意匠だけは、石堀光彦による変身で見た事のある人間もいるだろう。──だが、その戦士には、既に死んでしまった真の変身者がいた。 アクセルは、懐かしい声で、翔太郎に告げた。 「──記憶の欠片が再生しているのは、大道一人じゃないぜ」 「照井! お前も、大道たちに協力するのか……!?」 「俺に質問するなッ!」 ──ああ、それは、あの照井竜の声で間違いなかった。 だとするのなら、ナスカ・ドーパントはやはり園咲霧彦であり、ルナ・ドーパントは泉京水という事だろうか。 「ヴィヴィオちゃん。元気そうで安心したよ」 「霧彦さん!?」 やはり──そう。 彼らは、死者と同じ人格を有した『闇の欠片』なのだ。その想いと姿に限っては、確かに彼らの心強さが再現されている。変身後の姿を模してはいるが、それは確かに彼らの魂を引き継いだ戦士たちだった。 リニスの想いを再生した闇の欠片が、フェイトの成長を見つけ出そうとしたように──優しさも強さも捨てず、まだ戦い続ける。 そして、彼らはベリアルの野望を打ち砕こうという想いに限り、確かに共通し、その点においては、ガイアセイバーズと結託しうるのだった。 ──きっと、これが彼らとの、最後の共闘となるのだが。 「あなたたちの仲間の援護は始まってるわー! 艦のみんなも守護(まも)ってアゲてるみたいだから、友達も心配しないで先に進んじゃってOKよ!!」 「お前……」 「キャーッ!! NEVERなのに、みんなにこんなに優しくしちゃっていいのかしらーっ!! まるで仮面ライダーみたいネッ!!! あっ……でも、これここだけの話、他ならぬ克己ちゃんの命令なのよ? 他のみんなには内緒よ? キャーッ!! 言っちゃったー!! キャーッ!!」 「……黙ってろ、京水」 仮面ライダーエターナルに、その場で聞いている全員の視線が集中した。いずれも、──つぼみでさえも、意外そうである。 だが、このルナ・ドーパントの言葉が嘘とは思えなかった。何せ、彼は自分から嘘をつくようなタイプではない。──だとするのなら、本当に克己は、主催者の打倒と同時に、クルーの保護までも考えているのだろうか。 「克己さん……。やっぱり、あなたにも、咲き続いているんですね──こころの花が」 「フン……ッ、知らねえな。俺は、お前らが手こずっているこの話の黒幕をさっさと倒したいだけだ」 つぼみだけは克己の本来の性格が優しい人間であり、それが蘇生によって改変されてしまった事を知っている。だから、これが本来の彼なのかもしれない。 克己はゆりを殺した仮面ライダーであったが、それでもつぼみは、克己の罪を憎み、克己の事は憎まず──それどころか、信じたのだ。 「どういう事だよ? こいつら、敵じゃないんだよな……? 協力するって──」 事情を詳しく知らず、翔太郎への信頼地が最も高い杏子は少々首を傾けた。 だが、そんな混乱する杏子と異なり、これまで疑いを深めるばかりだった翔太郎の感情は纏まりがついた。そんな様子を見て、少しばかり考えを改めたのだろう。 確かに、プリキュアの想いの力や、花のエネルギーは、大道克己をかつての彼に近づけるほどの力を有していたと。 それならば、翔太郎はこれまでで初めて、照井や克己と共同戦線を張る事になるわけだ。 そんな不思議な状況を飲み込んだ彼は、誰にも聞こえぬよう呟いた。 「──エターナル。やっぱり、お前も、風都の仮面ライダー4号だったのか……」 ◆ 同時刻。 艦内は、そこがつい数分前まで広く果てない廊下であったのが嘘であるかのように、不気味な怪物たちに埋め尽くされていた。 これが、前線の現状であった。 「──ネフィリムフィスト!」 目の前の再生怪人の顎に向け、その拳を叩きつけるコロナ・ティミルは、もはや疲弊しきっている。体全体でアッパーを叩きこんでいるというより、打撃点である拳のみを固めて、残りの身体全体は成されるがままに動かしているかのようだった。 ふらふらと揺らめく体で、それでも真っ直ぐに敵の顎先を捕え、何とか目の前の怪人──ギリザメスを撃退した。倒されたギリザメスは、泡になって消えていく。 「はぁ……はぁ……」 彼女や、リオ・ウィズリーや、ノーヴェ・ナカジマは──そして、インターミドルで彼女たちと激突したストライクアーツ選手たちは、殆どが肩で息をするような状態であった。 相対するのは、狼男やイカデビル、ガラガランダやヒルカメレオンといった、かつて本郷猛と一文字隼人が戦った悪の組織「ショッカー」「ゲルショッカー」の改造人間と、同一の姿をした怪人たちであった。それに比して弱体化しているとはいえ、果てもなく湧いて来る怪人軍団の群れには多勢に無勢である。 「ヴィヴィオが……まだ頑張ってるんだ……! 私だって!」 それでも、コロナたちは諦めない。 此処にいるという事は、ヴィヴィオたちが受けた苦しみや痛みよりもずっと恵まれた想いをしているという事なのだから。 コロナは、元を辿れば、友達であるヴィヴィオに付き添うようにしてストライクアーツを始めた。──それゆえに、彼女に常に近い所にいる事で、彼女と友達であり続けようとしてきたのだ。 まだ彼女に追いつこうと言う意思は枯れていない。 「……そうだよ、コロナ……私たちは私たちに出来る事を全力でやる! ここに帰って来られなかった人が守れなかった世界は、私たちが叶える!」 コロナと背中を合わせ、お互いに支え合うようにして、立ち上がる小さな陰はリオであった。そんなリオも目の前の怪人──ザンジオーに向けて、力なく何歩か走りだし、両掌から、重たい一撃を放った。 「絶招 織炎虎砲!」 リオも、パワーに関しては、あの響良牙に匹敵するレベルであった。──先ほど、良牙のもとで鍛錬した際も、とりわけ彼女はその才能を良牙に褒められたほどである。 魔力消費が膨大な一撃が、ショッカー怪人ザンジオーの身体をぶち抜き、彼の身体も泡へと消し去った。 それでもまだ彼女たちの前に死人のように群がる怪人たちは彼女たちに向かってくる。 「「強くなるんだ……どこまでだって!」」 ──あのモニターによって、ヴィヴィオやアインハルトが巻き込まれた殺し合いを目の当りにした時、コロナとリオは何を想っただろう。 二人の痛みを分かってあげられるにはどのようにすればいいのか。こうして黙って見ている事しか出来ないなんて、友達としてそれで良いのだろうか。 ──そう思ったに違いない。 だが、現実には彼女たちはあまりにも無力だった。彼女たちだけでなく、その偉大な先輩たちも。世界中の人たちも。六十六名の参加者と世界を救う術が、人々にはなかった。現場に行きつく術すらなかった。 そして、人々は今も彼女たちと共にベリアルを倒しに行く事さえできないまま管理に屈しかねない状況に陥っている。 ならば、せめて彼女たちに道を開く為に、精一杯に自分の力を振り絞ってみせようと。 二人は──いや、この艦の乗組員は、須らくそう思っていた。 だからせめて、何かヴィヴィオたちを助けられる力を学びたい。──そうして、良牙から格闘を習おうとしたコロナとリオであった。 そんな二人も結局は、その欠片も習得する事ができなかったのだが。 「このくらいの敵……ッ!」 シオマネキングを中心に群がるショッカー怪人たちの姿を、リオたちは固い意志の籠った瞳で睨んだ。幸いにもまだ味方側に死人は出ていないが、ここから先はそれさえ覚悟をしなければならないかもしれない。 自分たちに出来るのはヴィヴィオたちが辿り着くまでの時間稼ぎに過ぎないのだ。 この区域にいる残りのショッカー怪人の数は何十体か。──魔力が保たず、別の区域もそれぞれ手一杯で援護も期待できない。敵一体につき消費される魔力を考えれば、このままここで勝ち進める可能性は高いとは言えなかった。 ──しかし、そう考えた直後、ある一声が彼女たちの形成を逆転させたのだ。 「────猛虎高飛車!!!」 そんな叫びが廊下に反響すると共に、廊下が不思議な光に包まれ、ショッカー怪人の断末魔がコロナたちの耳朶を打った。 いやはや、聞き取れた声は、良牙が教えようとした技の派生型と全く同じである。良牙はそれを教えなかったが、おそらくその技は滅多な事では出ないのだろう。 そんな技を使えそうなのは良牙くらいしかいないのだが、それは良牙ではない。 もう一度、技の名前と声を二人は頭の中で反芻した。 ──猛虎高飛車。 あの、獅子咆哮弾と対局に位置する「強気」の技だ。気の持ちようによって変化する技ではあるものの、この技を使った男は、本来なら、あのヴィヴィオと行動していた男・ただ一人のはず──。 「誰……!?」 「味方か!?」 ショッカー怪人たちも、周囲をきょろきょろと見回し始めた。増援がやってくるはずもない。──来るとすれば、それはあの殺し合いの生還者だろう。 だとすれば彼らにとってはむしろ好都合だが、現実は違った。 「──おい、お前ら……ヴィヴィオの友だちか!?」 遠くから響いて来る男の声は、コロナとリオにそう問いかけていた。 どこか聞き覚えがある声に、二人は固まる。確かにそれが何者なのかは二人とも、察しがついていた。 ──いや……だが、やはり、そんなはずがない。 彼女たちはそれをモニター越しにしか見ていなかったが、彼は少なくとももう、死んでいるのだから。 それでも、それは幻聴と呼ぶには、あまりにもはっきりしすぎていた。言葉は続いていく。 「なら、ヴィヴィオに伝えとけ。……こんなに強くて良い友だちがいれば、お前はまだまだ、どこまでも強くなれるってなっ!」 群れの向こう側からショッカー怪人を格闘技で撃退しながら近づいて来る声は、だんだん姿まで伴ってきた。 見えてくるのは、揺れる黒いおさげ髪──そして、真っ赤なチャイナ服。 それらが微かにでも見え始めた時、確信する。その場にいた者たちの間に呆気に取られたような表情が見え始め、そして、誰もが理解する。 それが一体、誰なのかを──。 「──それに、お前らもだぜ」 男の顔は、はっきりと彼女たちの瞳に映る。 彼には、「ロストロギア」の反応が強く出ていたのだが──誰もそんな事を気にしなかった。それは確かに、味方そのものであったからだ。 「早乙女乱馬、さん……?」 コロナとリオの前に現れた男は、頷いた。 あの殺し合いの場において、ヴィヴィオやアインハルトを保護し、彼女たちに幾つも助言した一人。 そして、参加者たちを苦しめたン・ダグバ・ゼバに、煮え湯を飲ませた強き男であった。 「よしっ、お前ら、まだ元気あるよな? 元気があんなら、まだまだ行くぞ!」 死者の手助けに二人も驚愕したのだが、同じ事がほとんど同時に、艦内のあらゆる場所でも起こり始めていた。 ──クルーと怪人たちとの戦いに、死者が割り込んでくる現象だ。 それは、『闇の欠片』によって引きだされた殺し合いの記憶そのものであるのだが、確かにその意志は大道克己の言った通り、艦にいる者たちの援護を始めているのだ。 仇なす者もいるとはいえ──この艦を守ろうとする者の方が多数であった。 それが多くの参加者たちの本質。──如何に多くの邪心の塊が湧き出で続けたとしても、折れる事なく戦い続ける者は必ずどこかにいる。 ◆ はやてたち面々が今から向かうのは、時空移動システムを司るアカルンと転送装置のある転送室だ。 今は、アカルンがそのシステムを司っており、サウラーが主にその場を管理している。夜や開いた時間は、ウエスターも共に交代で警護に当たっていたため、今は、二人のいずれか──あるいは二人のいずれもによって守られているのだろう。 敵側も、特に強く結界が張られたあのエリアにはまだ立ち入れていないらしい。……が、敵も同じようにして、全てを制御する部屋を探し彷徨っている。 それより早く転送室に辿り着き、ベリアルの世界の座標まで彼らを一刻も早く転送する準備をせねばならなかった。──戦闘の為の一通りの装備は、その近くに設置されている。 「……あともう少し!」 はやてが言った。 思いの外早くそんな言葉が出てきたので、彼らは少々安心し、それと同時に、それだけ早くベリアルとの決戦の地に向かわなければならないという事実に気づいた。休息は充分に取っており、いずれの身体にも別段調子の悪い所はない。 しかし、問題は、心の準備の話であった。──まだ一日猶予があると思っていたのに。 「もう少し、か……」 そんなやり切れない想いの籠った言葉を翔太郎が呟いた。それが誰の言葉であったのかはどうでもいい事だ。結局のところ、誰しもが憂いを持っていた。 勝利への自信が全くないわけではないが、たとえそれでも──ここをこんな状態で任さねばならない事には少々抵抗もある。 そんな気持ちを察してか、闇の欠片の仮面ライダーアクセルが翔太郎の方を見つめた。 「左、これからお前たちが去った後のこの艦は、俺たちが守る。……安心してくれ」 「照井……」 照井竜にこんな言葉をかけられるのが、かなり久しぶりに感じた。 結局、あの変身ロワイアルでは会えず終いである。──それだけ、あの殺し合いに強敵が多かったという事でもあろう。 少しでも運命が違えば、死んだのは翔太郎であったかもしれない。 「これが俺の──照井竜の、仮面ライダーとしての最後の仕事になるな。ここで戦う者たちは、全員がその覚悟を持ち、お前たちに託すつもりで戦っているんだ……。きっと、俺たちは、己の持つ最後の使命を果たすつもりでここに呼ばれた」 「……だけど、お前には仮面ライダー以外にも……照井竜としてもあるだろ」 「照井竜、として……か。ならば──所長には、一刻も早く『次の相手』を見つけるように言ってくれ。出なければ、彼女もすぐに『手遅れ』になる」 アクセルに対して、石堀光彦の変身形態である印象を持つ者がこの場には多かったが、こうして見てみると、石堀に比べればクールながらも穏やかさに満ち溢れたのが照井だった。それというのも、石堀は実質的に、アクセルの力を、人間の能力を強化する兵器程度にしかとどめていなかったからだろう。 見れば、アクセルという無機質なマスクの中にも奇妙な愛嬌が芽生えてくる。石堀の時には全くなかった感覚だ。 不意に、暁が、走りながらも、横からアクセルに訊いた。 「──なあ、照井だっけ? あんたたちはさ、この戦いが終わったら、消えちまうんだろ? このまま大人しく消える気なのか?」 「俺に質問するなッ!」 「……いや、それどうすりゃいいんだよ」 思いの外、辛辣な解答を受け取った暁は、少しばかり心を痛めたようだ。実際のところ、何気ない質問をしたところ、物凄い剣幕でこんな解答が来れば、腹も立つし心も折れる人間が大半だろう。暁も例外ではなかった。 代わって、別の「闇の欠片」が答えた。 「──みんな、大人しく消えるさ。……それが僕達、死人の宿命だ」 ナスカ・ドーパント──園咲霧彦である。 ドーパントでありながら、風都という街を愛した彼は、ひとまずここでベリアルと対立する者たちには善悪問わず、味方をするつもりだ。特に、ヴィヴィオを守る為にも──。 暁の質問にどんな意図があるのかはわからないが、彼らには堪えられる限りの質問を返す事も施せる。 ナスカの様子に悔いはなさそうであったが、ヴィヴィオは前向きになり切れなかった。どこか浮かない顔で告げる。 「……そうですね。いずれにせよ、闇の欠片は元々、そんなに長くは再生できません。……だから、霧彦さんたちとももうすぐ……」 そんなヴィヴィオを見て、ナスカはこうして再生されるという事が、「二度死ぬ」という事であるのを思い出す事になった。 生きている側からすれば、同じ人間との辛い別れを何度となく経験する事になる。 「すまない。ヴィヴィオちゃん、一度乗り越えた悲しみをもう一度繰り返すような形になってしまって」 「……ううん。私の事はいいんです。確かに悲しいけど、折角、一日でも霧彦さんたちと会えるなら、もっと良い時に会いたかったなって」 ヴィヴィオらしい言葉だと、ナスカは受け取った。──かつて、彼女の母の死を告げるのを先延ばしにしようとした事があったが、もしかすればそれこそ失策だったかもしれない。 彼女は大人顔負けの強さを持っている。あらゆる苦難に挫けない鉄の心だ。そんな純粋さは、簡単に歪められる物ではないらしい。 そんな二人のやり取りに変わってしまったが、元々ナスカにそれを問うたのは暁だ。 「……で、そうは言うけど、あんたもさ、このまま生きてやりたい事とかないわけ?」 「そんな事くらい、山ほどある。心残りな妹もいるんだ。──だが、残念ながら僕は生きていない。死ぬのは、あれで二度……だから、今こうしてここにいる事が充分奇跡のような物さ。償いだけはするつもりだ」 一度は冴子の裏切りに、もう一度はガドルとの戦いに敗れ死んだ。 死後、というのは思いの外、居心地が良くもあり、悪くもある果てなのだが、それについて生者に教える事は何もない。 強いて言えば、ヴィヴィオや杏子は、それぞれ別の形で近い物を感じた事があったが。 「……俺は三度目らしいがな」 「私も三度目! NEVERの勝ちね! 霧彦ちゃん!」 エターナルとルナ・ドーパントが横から付け加えた。 ナスカも、この二人の死人たちの言葉には、返す言葉もなかった。ただ、何となくこの面識もない連中に負けた事が悔しく感じられた。 そんな様子を察してか、花咲つぼみがナスカをフォローする。 「……あの、霧彦さん、落ち込まないでください。『二度ある事は三度ある』と言うものですから……きっと、霧彦さんももう一回くらい」 「彼らに張り合ったって嬉しくはない!」 と、ナスカがつぼみの天然さに突っ込んだその時──警告音が、突然、艦内に響くのを止めた。ぶつっ、と「音が切れる音」がした。 何分も鳴り続けたところで、結局はその場の音声を捕えづらくするだけと判断されたのだろうか。──だとするなら、音声の遮断は、その時は、英断だろう。流石に長く音が鳴りすぎている。 この音の連鎖と赤色のネオンは、却って人を不安にし、戦闘音を聞き逃させる。意識して、会話のボリュームも上げなければならないので敵に気づかれるリスクも上がる。 しかし、それはそんな配慮の為に鳴りやんだのではないと──次の瞬間、彼らは悟った。 『ドンッッッ!!!!!!!』 放送機能を司るオペレーターが待機しているはずのブリッジで爆音が起きたであろう事は、その場の音声を中継する無数のスピーカーによって、艦内に同時に認識される事態となった。 「──ッッ!? な、なんだッ!?」 今──確かに、予想だにしないハプニングが起きた実感があった。 ブリッジに攻撃を受けたという事は、敵の侵攻はかなり深く進んでいるはずだ。それを想い、彼らも黙りこくる。 あの場にいるのはクロノ以下、数名の戦闘要員と残りは魔術戦闘にたけているわけではない者たちだ。その周囲を屈強な者たちが厳重にガードしているとはいえ、奇襲を相手に上手にフォーメーションを組む事は出来ず、結果、こうして艦長の居場所までもが襲撃される事になったという事らしい。 「まずいな……! あそこが狙われたという事は、艦長が危ない!」 「クロノ艦長……!」 クロノ・ハラオウン艦長は勿論の事、この艦そのものの危機である。 だが、そんな心配と同時に、近くでもまた轟音が鳴り始めた。敵の魔の手は、着々とこの艦いっぱいに広がってきているらしい。それはもはや充満する煙のようだった。どこを塞いでも抑えがきかず、微かな隙間で余所へとなだれ込んでいく。 今こうして、警告音が鳴り止んだ時こそ、その実感は強まってくる──彼らの鼓膜を通して聞こえた轟音は、確実に敵襲による物だろう。 「……艦長室が狙われた……? じゃあ……マズイ……」 そして、誰よりその瞬間に危機感と絶望感に打ちひしがれたのは八神はやてであった。 彼女の顔色がその瞬間に大分変わったようである。──膝から崩れてもおかしくないような表情だった。それを辛うじて抑えながらも、胸の中に広がった絶望で、実際にはあまり膝を折ったのとあまり変わらないような状態である。 「どうしたんだ……?」 「──……これから向かう場所で転送をするにも、ブリッジの指揮と許可が必要や。それが出来なくなる。つまり、これから転送室に辿り着いても、ベリアルの世界には行けない」 ブリッジの襲撃。──それは、ベリアルの世界に辿り着く為に重ねて揃わなければならない条件が一つ切り崩されたという事である。生還者、ブリッジ、アカルンの三つの存在が同時に成り立たなければベリアルの世界には行けない。 並行世界に渡る手段は複数存在するが、たとえば、ディケイドのようにあの世界への耐性のない者は、そもそもオーロラをあの世界に繋ぐ事すらできないからだ。 敵は、確実にベリアルを倒す為の手段を封殺しにかかっているのだろう。作戦としては、その三つの要を制圧すべきなのは当然であった。 「──じゃあ、ここで終わりなのか?」 「勿論、ブリッジが襲撃を受けていた場合の話や。ただ、限りなく危険な状態になってる」 「襲撃を受けていた場合って……だって、あの音……」 「──まだ、わからん」 と、はやては言うが、ブリッジ周辺の警護は充分だったはずだ。 それこそ、ブリッジの内部に入られる事を想定しえないほどに固くガードされている。そもそも、指揮を司る場に敵が侵入するというのは敗北に近い状況であるゆえ、最も警備が固められていたのは、「拠点の周囲」だ。 拠点の警戒体勢は、それ以下であり、周囲を突破された以上は、時間の問題と言えよう。 「……みんなを信じましょう」 ヴィヴィオが口を開いた。 彼女は、この場一帯の沈んだ空気の中でも、あまり顔色を変えていない方だ。それは、危機感がないからというわけではない。 ブリッジにいるクロノたちへの心配も確かに強いのだが、同時に可能性も考えている。 全員が、ヴィヴィオに視線を集中した。 「──襲撃を受けたとしても、今の艦内放送で、この艦にいる人たちはみんな危機的状況には気が付いたはずです。それなら、霧彦さんみたいな人たちがブリッジに向かっているかもしれません」 「まあ、確かに……」 「特に、この艦に元々いた人たちと接触した人がいたら、ブリッジの位置も知る事が出来ます。クロノさんたちに増援が来る可能性もないはずがありません。──それに、ブリッジには外部世界の人たち(門矢士のようにパラレルワールドを移動できる者の事)に連絡する機器もあるはずですから、そちらの助けを呼んでいる可能性もあります」 それに関しては気づいた者もいたが、楽観的な発想の一部であったので、あくまでその可能性もあるとしか言えなかった。だが、それを信じる自信を持てるのもまた、彼女の性格の一部なのかもしれない。 それとも、ここにいるはやてが長い任務のストレスやプレッシャーから、司令にあるまじきネガティブを少し強めに抱き始めているのかもしれないが、実際のところは、ブリッジとの連絡が途絶えた現状、不明だと言えた。 『──おい、零! ここで立ち止まってる場合じゃない、後ろからとてつもない邪気が来るぞっ!』 その時、不意にザルバの叫びが木霊した。 その声は、呼びかけられた零だけではなく、その場にいた全員の耳に入り、瞬時に各人を我に返し、警戒させた。 「──何者だっ!?」 怒気の強い声で問うたのは、零である。 見れば──。 「──ッ!?」 ──次の瞬間、彼らの周囲を奇妙な「毬」が飛び交っていく。 それは、不規則に壁に跳ね返り、当たった場所で爆ぜて衝撃を与え続けた。 不可思議なのは、爆発を起こしても毬は消えず、尚も次の地点まで跳ね返り、そこで再び爆発を起こすという事だった。 つまり、これは敵方の爆弾だ。ここにいる人間を狙ったのかもしれない。 「くっ……! 何て事しやがる、こんな時に……っ!」 零が叫んだ。 奇妙な術の使い手の突然の奇襲に、はやてが咄嗟に防御壁を張った。 その壁が張られるよりも前に、零が瞬足で駆けだす。 と、同時に、剣を懐から抜き出し、毬をソウルメタルの剣で斬り裂いた──。空中で半分に分かたれた毬が爆発した。 爆弾を斬り、その爆発さえも回避するという──魔戒騎士ならではの荒業だ。 「ほっほっほっ……」 その直後、物陰から男女二人の怪人が姿を現したのだった。──そして、やはり、彼らは、「ロストロギア」の反応を有していた。 「ほう、お見事……。どうやら、あんたさん達があの殺し合いの生還者のようですな。……ようやく見つかりました」 「私たちを差し置いて生還した──というのは、万事に値する罪ね。さて、アクマロくん。どう料理しようかしら」 二体の怪人には、いずれも見覚えがあった。多くは、モニターやデータ上でだったが、インテリジェントデバイスたちはその怪物を知っていた。 レイジングハートは、二人を見て強い嫌悪の念を示す。 「ノーザ……! それに、アクマロ……!」 他ならぬ高町なのはを殺害したノーザと筋殻アクマロの二人だ。 ゲームの序盤において、スバル・ナカジマをソレワターセに変える事で猛威を振るった残虐な二人は、こうして記憶をデータとして再変換しても尚、コンビで行動しているらしい。 ──これが闇の欠片の、負の部分だ。親しい死者との再会と同時に、敵との再会までも許してしまう。 そして、このアクマロは、蘇ってしばらくして、どうやらこちらの姿を見つけて、後ろから追い、あのように奇襲をしかけてきたのである。 何より、彼らが翔太郎たちの姿を見つけられたのは、ただの勘ではなかったらしい事も、次の瞬間に明かされる事になった。 空がないというのに不気味な白い雪が降り注ぎ、一人の怪人が更にそこへ歩きだす。 「やはり、私の勘に狂いはなかったようですね。……人の集まっていないところほど、大物が釣れる。──アクマロさん、良い料理の仕方を期待しますよ」 ──ウェザー・ドーパントである。 「貴様は……井坂ッ! やはり貴様も地獄から迷い出たかッ!」 彼もまた、アクマロに加担したらしい。そして、おそらくは──メモリの持ち主がどこにいるのか、それを彼は何となく察知したのであろう。良牙が持つT2ガイアメモリの一つ『WEATHER』の運命が彼と引きあったに違いない。 「ノーザさんも井坂さんも、気を急いているようですな。……しかし、こやつらの料理の方法ですか。そんな物は知りませんが……ただ、出来上がる物──彼らが行きつく場所が何かだけは考えておきましょう」 ……彼ら三名のような真正の外道がエターナルの側につき、ベリアルの退治を願うという事は到底ありえない話である。 言うならば、死んでしまった後の彼らの目的は、自分と同じ地獄に生者を引きずりこむという事なのだから。「馬鹿は死ななきゃ治らない」というのは、全くの出鱈目であると、こうして証明されたわけだ。 アクマロは、ノーザとウェザーの期待に、ニタリと笑いながら返した。 「そう、勿論……彼らの行き場は、ノーザさんや井坂さんと同じ。地獄の苦しみを与えた上で、本当の地獄に落ちてもらいましょう!」 「オイオイ。……地獄にはてめえらはいらねえぜ」 同じく地獄を名乗る者として、エターナルはアクマロの前に出た。──地獄を語ったからには、エターナルが自ら対峙せねばならないと思ったのだろう。 どうやら、彼はアクマロとノーザを止めにかかるつもりらしい。それに並ぶようにして、ルナやアクセルやナスカも前に出る。 「井坂。……遂に本物の化け物どもにまで魂を売ったか! ならば遠慮はしない!」 アクセルは、仇敵のウェザーを睨んだ。 アクマロ、ノーザ、ウェザーの三体の強敵は、あくまでも生還者を地獄に引きずり込もうという魂胆らしい。──中でも、唯一この中で人間である井坂の姿に、アクセルは果てのない怒りを覚える。 これまでも非人道的ともいえる実験ばかりを繰り返してきた井坂であった。しかし、死して尚、その振る舞いが常軌を逸しているとは思わなかったのだろう。常々、照井の人物評の下を行く行動ばかりを取る男だ。 「──さて、そういう事だ。彼らは僕達に任せて先に行きたまえ、仮面ライダーくん」 「……霧彦」 「その代わり、ヴィヴィオちゃんたちは君に任せた。君が黒幕の陰謀を潰し、僕たちの故郷に再び、良い風が吹く事を祈ろう」 「……当たり前だ。風都は俺たちの庭だぜ」 ナスカは、それだけ聞いて、少し笑うと、その背にナスカウイングを開いた。その手に固くナスカブレードを握る。 「じゃあ、行くわよっ! ……あ、忠告しておくと、こう見えても私、──オバサンにも厳しいわよっ!」 「オバ……何よ、オカマのくせに!! トンデモない事言ってくれたわね!!」 「──あんたも今、言ってはならない事を言ったわね! ムッキィィィィィィ!!! これはもう、あの子に変わって、精一杯頑張って、このオバサンをブチ殺すッッ!!」 ルナの腕がノーザを捕らえる為に伸び、エターナルがエッジを構える。アクセルの姿は青きトライアルのものへと変身する。 先に転送システムの下へと彼らを送らねばならず、その為にもこうした強敵との戦いを彼らは飲んだわけだ。それぞれが目の前の相手と戦っておくべき理由は尽きない──ゆえに、逃げる側と、逃がす側はそれぞれが合意した決闘であった。 レイジングハートが、そんな彼らの姿を見つめながら、──自分に復讐の機会などない事を悟り、告げた。 「──ノーザ、アクマロ……。なのはたちが受けた痛みは、彼らが必ず返します! 無限に後悔しなさい」 「にゃー!」 アスティオンもまた、アインハルトと一緒にいた以上は彼らの事をよく知っていたのだろう。ヴィヴィオの肩の上で眉を顰め、敵の方を威嚇したティオは、全てを彼らに任せる事を誓うのである。 「行きましょう! ──ヴィヴィオの行ったように、きっと彼らのような者たちが最後に世界を守ろうとしていると信じて……!」 レイジングハートの言葉は、重たかった。 そう、出来る事なら、あの時無力であった自分の手で相棒の仇を倒し、彼女に捧げたい。──しかし、それはきっと、仲間がやってくれる。それで良いのだ。 復讐でも、怒りでもなく、ただ、正しいと思える事と守りたい物があれば良い。 「──うん!」 ヴィヴィオたちは頷き、その場に背を向けた。激闘の音が耳に聞こえ始めたが、振り向く事はない。彼らは、全てを闇の欠片で再生された風都の戦士たちに任せ、管理システムへと向かっていくのだ。 いずれまた、──それが『闇の欠片』であったとしても、霧彦たちに必ず出会えるよう祈りながら。 そして、きっと、まだこの艦では彼らのような者が戦い続け、支え続け、──きっと、自分たちに追い風を送ってくれると信じながら。 「……そうやな。ブリッジにもきっと……ああいう人たちが……」 はやてたちは走りだす。 信じるしかない。──そして、信じる根拠は確かにある。 彼らのように、死した者が時に生者の足を引っ張る事もあれば、助ける事もあるのだから。 不幸な未来も時にはあるが、同時に幸福な可能性だって残されているのだから──。 「ノーザにアクマロに井坂……。やっぱり闇の欠片で再生されてる奴らの中にも、簡単にはいかない奴がいるって事か」 「……そうだな、また戦いたくはねえような相手とも殺しあわなきゃならないわけだ」 良牙や翔太郎は、何名かの敵を思い出していた。 ゴ・ガドル・バ、ン・ダグバ・ゼバ、ダークザギ……おそらくは、この状況でも決して相容れる事のない相手が何人もいる。 それに、共に戦えるのかわからない者たちも──。 良牙が、ふと、一人の「友人」の事を思い出し、その名前を物憂げに呟いた。 「あかねさん……」 「……きっと大丈夫ですよ、良牙さん。あかねさんは最後に本当の自分を取り戻してくれたじゃないですか」 不安そうな良牙を、つぼみが宥めた。 彼女にも、またきっと、今度こそ敵にならずに会える仲間がいると──そう信じながら。 ◆ 時系列順で読む Back BRIGHT STREAM(2)Next BRIGHT STREAM(4) 投下順で読む Back BRIGHT STREAM(2)Next BRIGHT STREAM(4) Back BRIGHT STREAM(2) 左翔太郎 Next BRIGHT STREAM(4) Back BRIGHT STREAM(2) 花咲つぼみ Next BRIGHT STREAM(4) Back BRIGHT STREAM(2) 佐倉杏子 Next BRIGHT STREAM(4) Back BRIGHT STREAM(2) 高町ヴィヴィオ Next BRIGHT STREAM(4) Back BRIGHT STREAM(2) レイジングハート Next BRIGHT STREAM(4) Back BRIGHT STREAM(2) 涼村暁 Next BRIGHT STREAM(4) Back BRIGHT STREAM(2) 響良牙 Next BRIGHT STREAM(4) Back BRIGHT STREAM(2) 涼邑零 Next BRIGHT STREAM(4) Back BRIGHT STREAM(2) ニードル Next BRIGHT STREAM(4) Back BRIGHT STREAM(2) 吉良沢優 Next BRIGHT STREAM(4) Back BRIGHT STREAM(2) 美国織莉子 Next BRIGHT STREAM(4)
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BRIGHT STREAM(5) ◆gry038wOvE 【急】 いよいよ以て、遂に──管理システムを襲撃した全ての怪人が、闇の欠片たちとの協力により、全滅に近づいていた。 時空魔法陣が呼び寄せる怪人たちもだんだんと数を減らしている。 アースラ側は、敵の制圧を確信し始めていた。つい一時間前まで、敵がここまで減少している事など信じがたい話だったであろう。これも、闇の欠片という聖遺物の助けがあったお陰である。生前の能力と最後の意思をそのままに宿した彼らの記憶のコピーたちは、今なお、残る敵勢力たちを叩き潰していた。 だが、同時に、「何故、闇の欠片がここに現れたのか」という疑問も生じる。 それは別に、アースラ側で手配した物というわけではないらしく、おそらくはニードル側の差し金だ。──ニードルたちは何故、そんな物をわざわざばら撒き、「自分で放った怪人たち」を倒させているのか。 それは、本当にニードルらしい一つの遊び、なのだろうか。 それにしては、どうも引っかかるというのが、一部の人間の本心であった。 そんな時だ。 そこにいた者たちが何となく忘れかけていた脅威が、彼らの視界に見え始めたのは──。 「奴は……」 一方的に侵入者を制圧していく戦闘を行っていたエターナル──良牙は、その存在にいち早く気づいた。 目の前の敵の顔面に拳をめり込ませながらも、彼の視線はその怪物へと向かい始めていた。──友人の仇とでもいうべき、その怪物に。 だが、それを見た瞬間に彼が感じたのは怒りよりもまずは恐怖に類する感情だった。 やはり……やはり彼らもいたのか。 ──そう、もしかすれば、それこそが、自らに敵対する参加者全員を足して、余りあるニードル側のメリットであったのかもしれない。 四本角。白い体に金の装飾。 表情さえ視えない、その能面のようなマスク──。 「──」 管理中枢へと歩みを進めるのは、ン・ダグバ・ゼバであった。 そして、彼と共に真横を悠々と歩くのは、ニードルだ。まるで付き添うようにダグバの隣を歩いている。何より、彼が隣にいるダグバの事を全く警戒していない事が最も不気味であった。 ダグバというのは、容易く手なずけられる生物ではない。 だが、ダグバは一切、ニードルに手を出す様子はなかった。 「ぐっ……グアァッ……!!」 ダグバが目の前に掌を翳すと、その場に蠢いていた残りの怪人たちに向けて炎を発し、一斉に葬った。超自然発火能力だ。これによって怪人たちは焼けただれ、泡となるか、あるいはただ次元のどこかに消滅した。 全ての怪人たちが、自らを前には用済みとばかりに彼の前から姿を消していく。──味方とは思えないほどの残虐性であった。 その場にいた者たちが息を飲み込んだ。 「──」 誰もが、怪物の再来に気づき、その重大さを理解した。 いや、それが、「ダグバだけ」ならばまだ良かっただろう。 更に、そのダグバに加え、ガドル、ガミオと、三体の究極のグロンギが肩を並べて歩いている。本来協力しえないはずのグロンギの怪人たちだ。 「……三体も!」 それも、どう考えても並び立つ事のありえない「王」の群れである。 ダグバ、ガドル、ガミオ……いずれも、参加者たちを苦戦させた強敵だった。ガドルに敗れたガミオですら、何人もの集団でかかって遅れを取る程の力を持つ。 「──ダグバ、それにガドル……! 遂に来やがったか」 そんな異様な光景に、翔太郎は──ジョーカーは、まるで待っていたかのように言った。 待っていたかのように……と言うと、それこそ待ち望んでいたように聞こえるが、ジョーカーが彼を待っていたのは、蘇っているならば早々に葬りたかったからだ。 もし倒さなくて済むならば、それこそ蘇らなければジョーカーの望むパターンである。 逆に、ガドルやガミオまでも引き連れて現れるというのは、考えられる限り最悪のパターンであると言っていい。 「こいつら、まるで意思が感じられない。ニードル……! お前の仕業か……!?」 零が強い口調で訊く。 ──この三体のグロンギの王には、邪気さえない。あるいは、良牙が感じる事のできる「闘気」と言い換えてしまってもいいかもしれない。特に強いそれを発するガドルでさえそれを発さないという事を、零と良牙の二人はただ不気味に思った。 「……ええ。全て、私の仕業です」 ──そう、ニードルが、針を利用して彼らを操っているのである。闇の欠片といえど、彼の洗脳から逃れる事はできなかった。 そして、洗脳効果が有意に発動した場合、最も心強い味方であるのは彼らだ。ンのグロンギに比べれば、残る敵で脅威となる者は少なく済む。 「死者まで甦らせて、何のつもりだ? どんな野望だろうと、俺たちが必ず打ち砕いてみせるぜ!」 「そのつもりのようですね。しかし──」 すると、ニードルは頬を引きつらせ、不気味に笑った。 心底おかしいというよりは、まだ余裕を残した笑みのようでもあった。 「──その程度の戦力で彼ら三人を再び倒すというのは、少し骨が折れるでしょう?」 ニードルの余裕は、グロンギ三体の力と目の前の戦力を比べた時に必然的に起こる物だと言ってよかった。 この三人ならば、ここにいる者たちを一掃できると信じ込んでいるのだろう。 実際、これまで何人もの参加者が束になって倒す事ができなかったダグバやガドルが無傷でここに現われれば、ニードルの言うように相当骨が折れる話かもしれない。魔戒騎士の最高位ですら、苦戦した相手なのだから。 そして、これがもし、一対一の戦闘ならば、尚更、別だったかもしれないが──改めてこう言われると、その場にいる者たちも苦笑せざるを得なかった。 「その程度の戦力、か……」 この場にいるのは、ジョーカー、1号、2号、ライダーマン、スーパー1、ゼクロス、クウガ、エターナル、ダミーなのは、シャンゼリオン、ガウザー、零、キバ、ガロ、ウエスター、サウラーのみだ。 贔屓目に見ても、ガドル、ダグバ、ガミオに勝ち星をあげられるほど、人が揃ってはいないだろう。 三体の敵はまだ傷一つない真っ新な状態である。こちらも深刻な傷こそないにしても、やはり疲労状態にある。 だが──。 「……やっぱり、 “この程度”の戦力じゃ歯が立たない相手だったかな? お前らは」 ニードルに対する、ジョーカーの言葉は、挑発的だった。 それは根拠のない自信ではなく、聴覚を頼った明確な根拠による自信の芽生え。 彼の聴覚が既に、ここにやってくる新しい仲間の足音を捉えていたのだろう。 やがて、ジョーカーだけではなく、そこにいる全員の耳に足音が聞こえ始めていた。 「来るぜ……」 だんだんと、どこかから聞こえる足音が大きく重なり始めてきた。確かに、ばらばらな足並みがこちらへ近づいて来る。──そして、そうして近づいて来るのは、四人や五人の足音ではない。 まるで数百人の軍隊のようだが──それにしては纏まりがない音だった。ただ、彼らに唯一共通しているのは、ただ黙ってそこに向かっているという事であった。 可憐なフリルの衣装に身を包んだ少女。 悪魔に乗っ取られた心に再び光に灯せた怪人。 この世界の科学が得ていない「魔術」で装甲を作りだした男女。 文字を操る侍。 不幸な偶然により望まぬ戦いを行う宿命を追った超人。 ただの格闘少年。 ────そう、それは殺し合いの参加者たちだ。 その音を鳴らしているのは、この艦内に乗り戦い抜いてきた者たち、この艦に放たれた闇の欠片たち。そして、いずれも──味方であった。 「──みなさん、少し遅れてしまいました。すみません」 ジョーカーたちの元に辿り着いたその群れの中央にて、そう告げたのは高町ヴィヴィオであった。 ヴィヴィオ、ブロッサム、杏子、はやては勿論の事──そこには、プリキュアも、魔法少女も、魔導師も、仮面ライダーアクセルも、仮面ライダーエターナルも、ドーパントたちも……皆、揃っていた。 ヴォルケンリッターや、元ナンバーズの人員らも、格闘家も、仮面ライダーも、テッカマンも、シンケンジャーも、それに続いている。 戦死者は、ない。 「──再会の挨拶もしたいけど、どうやら後にしなきゃですね」 この艦を守り抜いた軍勢は、誰一人欠ける事なく、この場へと揃ったわけだ。 その中で強いて欠けたといえるなら、ノーザと、アクマロと、ゴオマと、井坂と、十臓ほどだろうか。どうやっても相容れない者が若干名現れるのもまた致し方ない話であろう。 外道シンケンレッドとして生きている志葉丈瑠や、ニードルにとっても厄介だった三影英介なども除外されている。 ──が、参加者の大半は、彼らの味方となったのであった。 大道克己、泉京水、バラゴ、黒岩省吾、スバル・ナカジマ、ティアナ・ランスター、月影ゆり、ダークプリキュア、パンスト太郎、溝呂木眞也、相羽シンヤ、モロトフ……そんな、これまで肩を並べて戦う可能性が薄かった参加者までもだ。 単純に心を入れ替えた者もいれば、ベリアルに敵対する意思が強い者、戦う相手としてより強い側と推定される「ベリアル」を選択し快い戦いを求めた者もいる。 ニードルは、眼鏡の奥で瞳を光らせる。 「なるほど……。やはり、闇の欠片をばら撒いたのは正解だったようですね。贋作といえど、これだけ強い生命力があるならば、後は──」 「何? この状況で何を言ってやがる?」 「──まあ気にしないでください」 だが、そんな時、闇の欠片たちの中から、一人が前に出て、声をかけた。 それは、赤いマスクの仮面ライダーである。──忍者の仮面ライダーゼクロスだ。 少しばかりエターナルよりも大型に見えるゼクロスに一度は威圧される。──考えてみれば、彼にとって「仮面ライダーエターナル」とは、最後に命を削り合った敵対者の姿だ。 どんな言葉をかけられるかと思ったが、彼は中が良牙だと気づいているようだった。 「おい、ニードル……いや、ヤマアラシロイド。そろそろ観念した方がいいと思うぜ。──な? 良牙」 「お前……まさか、良か?」 「ああ、俺の名は村雨良──又の名を、仮面ライダーゼクロス!」 ニードルの属するBADANと戦うはずだったのが彼だ。 記憶喪失で感情が薄かった良は、今ではすっかり記憶を取り戻し、陰のない陽気な好青年となっている。僅かに良牙のイメージする彼とは違っていたが──いや、これこそ本当の彼なのだ。 そして、たとえ姿は変わったとしても、根底は同じだ。 ニードルたちを絶対に倒すという意志が彼にはある。 いや──それを言うなら、「彼らには」か。 「──ガイアセイバーズを甘く見るなよ!」 ゼクロスのその言葉を合図に、総勢、八十名以上の戦士が身構えた。ある者は変身のポーズを、ある者は名を名乗る時のポーズを、ある者はただ純粋に銃の照準を合わせ、ある者は自分流の格闘技の構えをした。 仮面ライダー。 ウルトラマン。 プリキュア。 魔戒騎士。 魔法少女。 魔導師。 ただの人間。 彼らは今、この大集団ガイアセイバーズの一員として名乗りをあげる。 もはや、そんな姿には、ダグバ、ガドル、ガミオの三人の番人も些か頼りなさすぎるほどだ。──あれほどの強敵が、こんなにも矮小に見える。 生還者たちに最後に齎されたのは、死者による希望であった。 「アアアアアウォォォォォォォォォオオオオオンッッッ!!!!!!」 ダグバが掌を翳す。 ガドルが構える。 ガミオが吼える。 そんな動作も──まるで恐ろしくない。 ニードルは尚も、その後ろでポケットに手を突っ込んだまま、敵を見つめ続けた。 「……そうですね。甘く見たかもしれません。……ただ、そろそろ始まる頃合いでしょう」 呟くようにニードルは言う。 そして、臆する事もなく、彼は振り返り、歩きだした。 彼の行く手には何もない。──しかし、彼は何処かへ向かっていこうとする。 「私はダグバ、ガドル、ガミオ……しばらく彼らと遊んでいなさい」 「待て、ニードル!」 だが、ニードルの命令を聞きいれたグロンギ怪人は、マシーンのように目の前の敵対者たちを狩ろうと動き出し始めた。前に進もうとした良牙たちであるが、その前を三人は阻んだ。 ──ダグバが目の前に炎を発生させる。紅煉が床や壁に広がる。 最前線にいたキバやガウザーにもその炎は燃え広がる。彼らの身体が一瞬で大火に包まれた。 「──くっ!」 「援護するッ!」 だが、彼らが熱いと感じるよりも早く、シンケンブルーが「モヂカラ」によって水を注ぎこんだ。水流が弾け、この場を燃やし尽くそうとした焔は一斉に蒸発し、煙となる。 「ガァッ!」 ──ダグバの側方に立っていたガドルとガミオが、隙もなく駆け出した。 凶暴な爪をいきり立て、ただ前方の敵を狙い、その胸元を抉ろうとする二体のグロンギ。 しかし、そんな二人に向けて、前線の者たちの背後から、同じように向かっていき、彼らにパンチを叩きつけた者がいた──。 「ハァッ……ッ!」 「フンッ……ッ!」 ウルトラマンネクサスとダークメフィストであった。 グロンギの腹部に叩きつけられるウルトラマンたちの拳。──それは、敵の腹の上で跳ねる。 姫矢准と、溝呂木眞也──。 仮面ライダージョーカーや杏子の呆然とする姿を置いて、彼らはグロンギの怪物たちに向けて同時に膝蹴りを叩きこんだのだ。 彼らは、償いの為に──いや、たとえ償えたとしても。 ──彼らは、その身が戦える限り、闇と戦う。 「おおりゃあッ!!」 アメイジングマイティフォームに変身した仮面ライダークウガが飛び上がり、ダグバに向けてパンチを叩きこんだ。 それはまぎれもない五代雄介の姿──彼の戦う様を見て、思わず良牙は後方を振り向いた。五代と縁のある参加者というのを一人知っていた。 そう、五代を殺した少女──。 「──」 すると、おそらく、彼に「許された」であろう少女がエターナルに頷く。五代が許さぬはずがなかった。何せ、最後まで彼女をかけていたのだから。 そして──彼女も、美樹さやかもまた、溝呂木を「許した」のだろう。 許されぬままだったのは少数の、正真正銘の悪徳の塊たち──今はそれを倒す為に全員が助け合うように戦っている。 つぼみの言った「助け合い」が、もう始まりかけているのかもしれない──。 そう、巡っていくはずの因果が断ち切られようとしている。 誰かが我慢する事で──いや、誰かが許す事で、回り続けるはずの怨念の連鎖は断ち切られようとしているのだ。 キュアブロッサムが、かつてキュアムーンライトに言ったはずの言葉を思い出し、ぐっと唾を飲み込んだ。 「サカナマル!!」 「バルディッシュ!!」 「ロープアーム!!」 あらゆる攻撃が三体のグロンギにぶつけられていく。 この艦を守る為の最後の仕事としてか──、彼らはひたすらに拳を握り、武器を取る。 ほとんどの攻撃はグロンギたちには効いていなかった。──しかし、それらが微弱ながらも彼らにダメージを与える。 それを繰り返せばいいだけの話だった。 「──猛虎高飛車!!」 そして、その時、ダグバを攻撃する声は、まぎれもない早乙女乱馬そのものであった。 エターナルは──良牙は、彼を見ながら呆然とする。 かつて彼が戦ったダグバ……だからこそ、乱馬は己を勝負で圧倒した(敗れたとは口が裂けても言わないだろう)相手に、再度勝利を収める為に立ち向かっているのだろう。 つくづく彼は負けず嫌いで恐れを知らない人間らしい……。 「──乱馬!」 「良牙、何やってやがる!! お前もさっさと手伝えよ!!」 「あ、ああ……!」 死人の癖に、まるで普通に接してくる乱馬だ。 彼がそう叱咤する声は確かに耳に入っていたが、嬉しさか、悲しさか、何かが邪魔をして良牙の身体を動かさなかった。 しかし、闘志がないわけではない。ただ、彼の姿を見た時に何故か動けなくなった。 この場で生還者たちの動きがどこか鈍いのは──彼と同じ気持ちかもしれない。 誰もが、ここで戦う死者に知り合いがいる。そして、その人の死を受け入れ、今、また死者と別れようとしている。 「……」 死人還り。──そう、儚い夢の如し。 このただひとときの幻想の中で──動きが止まってしまうのも無理はないかもしれない。 そんな時、良牙の前を、クウガと似た──しかし、微かに意匠の異なる戦士が横切った。 「……あかねさん」 プロトタイプクウガの仮面に身を包んだ少女は、エターナルを見て立ち止まると、ただ、頷いた。そして、エターナルの前を通り過ぎて行った。 彼女もまた──本当に、最後に良牙の名を呼んだように。 この、僅かな命の再来の機会に、罪を償う為に──。 (これが最後のチャンス、か……) そうか──。 これが、乱馬たちと共に戦える最後のチャンスだ。 乱馬とはまたいずれ、雌雄を決する時が来るだろう……だが、その前に。 また、一度、パンスト太郎たちと戦った時のように──やってやる! 「猛虎高飛車!!」 「獅子咆哮弾!!」 乱馬と良牙──二人の放った気弾が、ダグバの身を一瞬で包んだ。それは彼の放つ炎よりも速かった。 強敵の体躯は、その二人の合わせた気弾によって、一瞬にして数十メートル後方まで吹き飛んだのである。 「────ッッ!?」 正と負のスパイラルがダグバの身体に深刻なまでのダメージを与える。 勝利への確信と、悪への怒り──この二つが混ざり合った結果であった。 「「「「「「「「「「プリキュア・ハートキャッチ・フォルテウェイブ!!!」」」」」」」」」」 「「「「「「「「「「オールライダーキィィィィック!!!」」」」」」」」」」 そんな強さを持って敵に立ち向かったのは彼らだけではない。──まるで圧倒的な力が壁を押しのけていくかのように、ガドルとガミオの身体も後退し、やがて誰かの手によってダグバのように遥か後方まで転げまわった。 よもや、これだけの圧倒的な力があれば、あの三体を相手にしたとしても、ガイアセイバーズの勝利は確定的であるといえるだろう。 一人一人では小さいとしても、これだけの数が一つになれば、もはやこれまでの強敵も敵の内に入らなかった。 「よし、今だ……! 全員の力を合わせるぞ!」 「みんな、エネルギーを結集させるんだ!!」 仮面ライダー1号と仮面ライダー2号が叫んだ。 ダグバ、ガドル、ガミオを除き、その場にいた全員が頷く。 倒れたまま起き上がろうとするダグバ、ガドル、ガミオの目の前で、八十余名の人間が円陣を組んだ。 ──そして、彼らの指示通りにそれぞれがエネルギーを解放し、叫んだ。 「「「「「「「「「「ヒーローシンドローム!!!!!」」」」」」」」」」 邪を滅するべく心を一つにした彼らのエネルギーが解放される。 仮面ライダーたちのタイフーンが回転し、魔を持つ者の魔力が湧きあがる。エナジーコアが激しく光、モヂカラは最大まで発動される。 そして、オーバーヒートせんばかりの変身エネルギーや魂が渦を巻く。 彼らが力を合わせる事により、全てのエネルギーが一つになり、巨大な力へと変わっていくのである。 ──刹那。 彼らを中心にして、艦内全てを包む巨大な光の風が駆け巡った。 「……ッ!!?」 ダグバ、ガドル、ガミオは、光の風に触れた瞬間、自らの両手から粒子が上っていくのを垣間見た。──視界もぼやけ始めていた。 攻撃は受けていないはずだ。 だが、彼ら三人の身体は消滅を始めている──。 全身の力が抜け、僅かな痛みがそれぞれの胸を引っ掻いた。 「……ガッ……ガァァァァァァァァァァァッ!!!」 そして──、最初一瞬の堪えようのない苦しみと、最後一瞬の安らかな気持ちと共に、三人の身体は一斉に光へとあっけなく消えた。 まるでそこには最初から何もなかったかのように。 強敵たちの闇の欠片は完全消滅し、目の前に敵はいなくなった。 彼らは、力の発動を終え、闇の欠片の浄化を確信する事になった。 「──やったぜ!」 ダグバ、ガドル、ガミオの三体の怪人を倒した彼らの内、誰かがそう叫んだ。 しかし、誰の言葉であれ変わらないだろう。 残ったのは、勝者たちのサムズアップであった。 ◆ ──そして、そんな時に、再び奇妙な邪魔が入り始めた。 ≪WARNING!!≫≪WARNING!!≫≪WARNING!!≫ ≪WARNING!!≫≪WARNING!!≫≪WARNING!!≫ ≪WARNING!!≫≪WARNING!!≫≪WARNING!!≫ 不意に、また突然あの警告音が鳴り響いたのである。 それは、ブリッジから発された警告──つまり、クロノ・ハラオウンによる物だろうと誰もが思った。テッカマンによる援護が功を奏し、ブリッジの状態も復元されていたのだ。 しかし、何故今更こうして警告が鳴り始めたのだろうか。 危機的状況は終わりを告げ、今更こんな警告を鳴らす必要はまるでないかに思われた。 ◆ ──警告と共に、放送が始まった。 それは、六時間に一度だけ殺し合いを誘発する悪魔の放送とは違う。ここに搭乗している者に、安全を──そして、脱出を促す為の声である。 ブリッジからの通達であるが、その放送を担当した人物の声に、ヴィヴィオや翔太郎は少しばかり驚いた事だろう。 『──乗員のみんな、よく聞いてくれ。この艦の存在が消滅し始めている!』 吉良沢優の声であった。 クロノもおそらくその場にいるはずなのだが、放送の声はまぎれもなく、あの殺し合いの主催者側に協力した吉良沢である。そういえば、翔太郎は──「艦が沈む」という予言を彼から聞いていたのを思い出した。 こちらが優勢に立ち、すっかり失念しかけていたが、考えてみれば、この艦が沈められるリスクがあったという事。 それと何らかの関係があるのではないかと翔太郎は勘ぐる。 『この艦がこの時代で再び存在していたのは、高町なのはたちの「過去の死」が原因だ。……だが、ここで彼女たちが生命力を発揮しすぎた。──そんな彼女たちの存在がこの世界線上に認められ、同時にこの艦が消えようとしている』 人々の視線は、なのはに向けられた。──彼女に限らず、フェイト・テスタロッサやユーノ・スクライア、スバル・ナカジマやティアナ・ランスターも同じなのであるが、こうして名指しされると、皆そちらに目をやってしまう。 「えっ……?」 当のなのはも全くの無自覚であった為に、そう言われてもどうしようもなかった。 ただ、レイジングハートを握りながら、当惑するのみである。 自分が現れた事が原因──と言われても、それはどうしようもない話だ。闇の欠片として再誕した者は、当然ながら自分の境遇と照らし合わせ、彼女を責める事は出来なかっただろうし、なのはの仲間が多くいるこの艦の人間も同じく彼女を責めなかっただろう。 この艦自体が、元々、彼女のお陰で保たれたようなものなのだから。 「まさか……ニードルが闇の欠片を使ってなのはたちのデータを再生したのは──」 「そうか……この艦の存在を消滅させる為の作戦の一つだった!」 「闇の欠片そのものが、ニードルによる妨害工作だったんだ!」 そんな誰かの言葉で、ニードルがわざわざ闇の欠片を使った事の真意の一部を汲み取った。彼にしてみればゲーム感覚でもあったのだろうが、それに限らず、彼は着実にベリアルの側に利益を齎している。 なるほど、闇の欠片騒動や怪人騒動は囮であり、それによって艦を沈めるのが狙いの一つだったのだ。 『──この艦は間もなくここで消滅してしまう。載っているみんなは一刻も早く脱出を! 外の世界の救援が間もなくそちらに向かう』 放送はそれで終わり、警告音も止んだ。 ただ誰もが呆然と立ち尽くすのみであった。──この艦が消える。 そうなれば、ベリアルの世界へと向かう術はなくなってしまう。ディケイドたちが個人の力で開く事はできない。 いわば、この艦こそが最後の要なのだ──。 そして、その連絡とほとんど同時に、もう一つ不測の事態が発生しようとしていた。 「……えっ!?」 ──それは、まさしく不意のタイミングだった。 かねてより言われていた事であったが、よもや、この艦が消滅すると同時に──。 「アインハルトさん……!?」 「ヴィヴィオ、さん……」 ヴィヴィオの前にいる者たちの身体が、だんだんと粒子の粒になっていた。粒子の粒は、滴が逆さに上るように空へと舞い上がり、彼らの頭上で消えていく。 そうだ、先ほど倒されていった敵たち──ダグバ、ガドル、ガミオもそうであった。 いわば、それは彼ら、「闇の欠片」が消える前の合図──。 まるで、祭りの終わりが近づいてきたような感覚だ。 「……まさか闇の欠片が──消滅し始めている……?」 ──アースラの消滅とほとんど同時に、そこにいた闇の欠片たちも自動的に消滅を始めようとしていたのである。 そう、確かに──闇の欠片にも限界がある。 しかし、まさか、この瞬間に来る事になるとは、誰も思いもよらなかっただろう。 「そんな……!?」 「────時間だ」 割り切ったように、エターナル──大道克己がそう言った。 そして、彼らの誰も、自身の身体と心がここから先、遂に消えてしまう事への恐れが、全くないかのようだった。 死神の代表格としてここに支援を行った彼であるが、どうやら、もう消え時のようである。 すると、誰かが言った。 「そうか……短い間だったが、また、共に戦えてよかった。俺たちの誇りだ」 「みんな、必ず悪い奴らを倒してね!」 「元気でな、元の世界に帰ったらあいつらによろしく頼むぜ」 「大丈夫です、私のせいで艦が沈むって言ったけど……この艦は沈みません!」 五十人以上の言葉が、同時に重なった声──それを全て聞けるはずもない。 だが、それぞれが言いたい事は誰にもわかった。「ベリアルを倒してほしい」、「共に戦えてよかった」、「元の世界の仲間を頼む」──まるで寄せ書きのようだ。円になっている字面を見れば、だいたい何が書いてあるのか予想もついてしまうほど単純な言葉で飾られるが、その言葉の一つ一つが胸を打つ、そんな感覚。 それでも、そんな寄せ書きを遮り、誰かが口を開いた。 「──待って!」 ヴィヴィオだ。彼女の闇の欠片たちを呼び止める声が響いた。 彼女にもまだ、挨拶をしたい人がいる──。たくさんの人に何かを伝えたい。 だが、それが出来る時間は残されていなかった。 ヴィヴィオが手を伸ばすと、その先には、消えゆく人たちの──変身を解除した際の、人間としての笑顔である。 彼らは生者を見送ろうとしていた。 ──そう、そこにあるのは、五十名の笑顔。 「あっ……」 そして──、次の瞬間、闇の欠片たちは、一斉に泡と消える。狭かったその場所が、あまりにも大きく、広くなった。 ──ヴィヴィオの手は空を掴んだ。あまりに儚く。 残ったのは、左翔太郎、響良牙、高町ヴィヴィオ、花咲つぼみ、佐倉杏子、涼邑零、涼村暁、レイジングハート、八神はやて、ウエスター、サウラー……それから、残りのクルーたちだけだ。 「そんな……」 敵がいなくなり、味方もいなくなった場所は、まるで全ての屋台が片づけられた祭りの跡のように広々としていた。手を伸ばしても誰のぬくもりにも届かない。 せめて、告げたかった別れの挨拶も結局告げる事はできなかったのだ。 何かを返す事はできなかったのだろうか──。 「……!」 だが──「闇の欠片」の想いは、決して、それだけに終わらなかった。 「これは──」 次の瞬間、分解した闇の欠片は、一つの場所に自ずと集合して、一筋の風として吹き始めたのだ。 それは、空中で八俣に分かれ、レイジングハートを含む八人の身体に結合した。 まるで意思を持っているかのように、ただ正確に生還者にだけ力を託していく。 「まさか……闇の欠片が……俺たちに……風を……!?」 仮面ライダージョーカーのロストドライバーに闇の欠片が遺した力が注ぎ込まれる。 ジョーカーの全身が突如として光り始め、やがて、彼の身体はだんだんと、別の姿に変わり始めていた。 そう、これは八人を支える為に闇の欠片が与える最終決戦の為のエネルギーであった。 黄金の風となった死者の魂である。 全員の身体に、闇の欠片の最後の意思が宿り始めていたのだ。 「鋼牙の金色……そして、キバの魔の力……」 『そうか、キバの奴……お前に最後の魔力を託したんだ! これで今のお前は魔力が切れるまでは、無制限に鎧を装着できるぞ!』 零の双の魔戒剣に、それぞれ、「金」と「黒」の力が注ぎ込まれた。 一方は、光の力──黄金の風、そしてもう一方は、陰我と闇の力──黒い炎。 この二つが絶えず吹き荒れ、騎士とホラーとの戦いが生まれる。そのいずれもが、零に力を与えているという事か。 ならば、この鎧を装着する時が来たようだ。 ──零は、頭上に魔戒剣を二つ並べ、それで魔界に繋がる円を描いた。 彼の真上に、天使たちが鎧を運ぶ。銀色のパーツを零の身体に装着し、黄金の力と魔の力とが、彼の鎧に重なった。 ──黄金・絶狼!!── そう呼ぶに相応しい、黄金の光の力を借りた新たな銀牙騎士・絶狼がここに誕生する。 「スーパープリキュア……!」 キュアブロッサムの身体を包んだのは、再びのスーパープリキュアの勇姿であった。デバイスの力を受けてただ一度だけ変身したこの姿であるが、どうやら、本当のプリキュア並の力が彼女に向かっていったらしい。 プリキュアたちの力を借りたがゆえに──そして、杏子にもまた魔力が取り戻っていた。 ガイアポロンにも、レイジングハートにも、同様に注がれる力──。 そして。 「ゴールドエクストリーム……!」 ジョーカーの身体は完全な進化を遂げたのだ。 ジョーカーではなく、仮面ライダーダブルの姿に──その背には金色の羽根が生え、半身が緑色の風の力に包まれている。中央には金色のクリスタルサーバーが出現していた。 かつて、風の力を借りて変身した仮面ライダーダブル最強の姿なのである。 しかし、そこには、「ダブル」を構成する相棒がいない── 『──やあ、翔太郎』 「フィリップ……?」 ──はずだった。 それでも、確かに翔太郎の元には、今、フィリップという相棒の声が届いた。 幻聴であろうか? と、周囲をきょろきょろと見回すダブル──杏子が、呆然としたままこちらを見ていた。 いや、しかし、そうではなかった。次の瞬間、確かに、右目が光り、仮面ライダーダブルの口からは、フィリップという少年の声が聞こえた。 『今度の僕は、闇の欠片が作ったデータの結晶だ。──ただ、肉体は無いから、いつかみたいに変身を解除したら僕も消えてしまうけどね』 「フィリップ……本当にお前なのか?」 そう問うと、ダブルの中に存在する少年は答えた。 『ああ。最後だけ、また力を貸すよ。だって、僕達は──』 「……ああ。ああ、お前がフィリップなら──言わなくてもわかるぜ。──そうだよな……! やっぱり、俺たちはこれでこそ……二人で一人の仮面ライダーだ!」 照井、霧彦、克己、京水……四人との別れを終えた後の翔太郎の口調はどこか寂し気でもある。これがまた、最後の仮面ライダーダブルとなる事を知っているからだ。 見下ろせば、やはりそこにあるのは幻のように儚いエクストリームメモリの姿と、ロストドライバーには欠けていた「右側」が再構築されている。 「金の腕のエターナル、か……! やっぱり、あいつらが力を貸して……!」 仮面ライダーエターナル、響良牙の両腕は、金色に変わっている。 言うならば、それはただ一人、良牙だけにしか変身できないエターナルの姿であった。 赤き炎は青へ、青き炎は黄金へ──そう、ゴールドフレア。 その瞳に輝いている色と同じであった。 「凄い……パワーが溢れてきます……! それに、みんなの想いを感じる……!」 ヴィヴィオが両腕を見つめる。 自分の中にかつてないほどの力を感じた。──そこには、アインハルトや、高町なのはや、フェイトや、ユーノや、スバルや、ティアナや、乱馬や、霧彦や、祈里たちの力が込められているような気がした。 ただ一度だけ、世界を救う為にあらゆる物が力を貸してくれている。 ベリアルを倒し、今度は殺し合いではなく、助け合いの世界に変身させる為に──。 「──まさか、あんたたち、脱出、せんのか?」 警告音をバックに、はやては、不安そうに訊いた。 今、彼らの元に力が宿ったのはわかっている。だが、だからといって、この艦にいれば、ベリアルの世界に辿り着く事もなく、次元の狭間に置き去りにされてしまうかもしれない。何せ、この艦はこのまま消えてしまうのだ。 生還者たちは、お互いに顔を見合わせた。──それぞれの決意は固まっているが、誰かが別の解答を望んでいるならば、巻き込むべきではないと思ったのだろう。 だから、八人は、全員、残る七人の顔色を見た。 「……」 しかし、あくまでそれはちょっとした確認であった。 既に、お互いが何を考えているのかは、誰にでもおおよその察しがついている。──そう、ここしばらくの戦いや冒険が互いのパーソナリティをしっかりと教えてくれた。 真っ先に口を開いたのは、ダブルであった。 「ああ……俺たちは、この艦に最後まで付き合う。今は、ディケイドの力じゃベリアルの世界に渡れない……アースラじゃなきゃ渡れないんだろ?」 その通りである。 生還者が世界を渡る方法は、今のところ、これしか見つかっていない。例外的に存在するのが、時空を超えられるウルトラマンゼロと合体し、参加者の「変身ロワイアルの世界に行ける力」と、ゼロの「時空を超える力」を相互的に補完する方法だが、これも既に不可能だ。 ディケイドやラビリンスの人間のように、ただ世界を越えられる力を持っていても意味はない。 最後に賭けられるのは、こうしてこの艦に残り続け、ベリアルの世界に向かう事。 出なければ、どちらにせよ宇宙は消滅し、すぐにでもお互いが消滅してしまう。 「──そうですね。この力を無駄にするわけにはいかないですし」 ヴィヴィオが、力強くそう言った。 おそらく、この力が彼らにあるのは一時的な奇跡のような物だ。長くは続かない。 仮に一週間以内に再び別の艦が来るとしても、この力を使う事は二度とできなくなってしまうだろう。 折角得た力を無碍にしてしまうわけにもいかない。 「言った通り。この艦は、フェイトやユーノが力を貸した艦だ。きっと、あたしたちを最後まで乗っけてくれる」 杏子がそう言った。 いま名前を出した二人にまた会い、──そして、許しを得た為か、彼女の心は晴れやかだった。 「そうか……。それなら仕方ないな」 はやても、彼らを自らの元に連れて行く事は出来なかった。 それはある種、冷酷な事でもあるのだが──その判断が、指揮官として正解であるのも彼女は理解していた。 彼女たちを異世界に連れていける方法はこの艦しかない。そして、彼女たちが戻ったところで、彼女たちを異世界に連れていく方法は心当たりもない。 いつ沈むかわからない泥船であっても、彼女たちをこの船に乗せて送るのが正しい手段なのだ。──それでも、はやては、今度は、先ほどとは逆に彼女たちを連れ戻したいと思っていた。 しかし、いま、はやてはその考えを続けるのをやめた。 この賭けこそが、彼女たちの方が選んだ選択なのだから──。 その時であった。 今度は、備え付けられたスピーカーから声が聞こえる。 『──君たちの覚悟を受け取った。この艦は目的地まで辿り着かせる。……そう、僕達が運命を変えてみせる』 吉良沢は、こちらを見ているのか、そう放送したのである。 生還者八名は、その言葉を聞いて、頷いた。──吉良沢優を知っている者もいれば、知らない者もいる。しかし、それが味方であるのは誰にもわかっただろう。 やがて、はやてたちの元に、ある男──オーロラを使って異世界を繋ぐ事ができる男が現れ、ベリアルの世界に耐性のない者たちだけを、安全な異世界へと運んでいった。 そうして、遂にこの艦に残ったのは僅かな人間だけになった。 たった八人の生還者と、これまで主催を補佐してきていた者たち──。 彼らには余りにも広すぎる。 しかし──目の前に迫っている決戦の地に彼らが目を背けるはずはなかった。 この広い船の中でで、ただ、彼らは待つ。 最後の戦いを────そして、新しい「助け合い」の時を。 ◆ ブリッジの操舵は吉良沢が行っていた。 残ったのは、彼と織莉子だけだった。アリシアとリニスは、少し嫌がったが──クロノに任せた。意識の幼い少女を巻き込むわけにはいかないという、吉良沢と織莉子の計らいである。 それに、彼女たちには、織莉子や吉良沢のように、“罪”はない。 ──幸いにも、吉良沢はこの艦に来た時にその構造を解し、その操縦方法や修理方法は一通り頭に入っている。プロメテの子としてのあまりに高すぎる知能がそれを可能にしていたのだ。 ただ、複数のオペレーターがいた心強さに比べると、いやはや、どうも心細さもある物だ。 たった一人が舵を握る船と言うのは、ミラーのない車両運転に似ている。 視界不良のまま、不安定な道を行く──そんな、安定とは無縁に前に進んでいく心理。 それに加えて、今は少しでも早く目的の座標に辿り着かなければならないだけに、スピードも出る。 「──くっ」 艦内のエネルギーがだんだんと下がっていた。燃料不足でも何でもなく、ただこの艦が消えかかっているからだろう。 ある意味、生命力が消えかかっていっていると言ってもいい。 「まだだ……まだ、大丈夫……運命は変わる!」 織莉子のビジョンによると、この艦は沈むらしい。 これと同じシチュエーションかはわからない。ただ、この艦は沈み、ベリアルの世界に辿り着く事なく、滅びるという。 ──そうなれば、世界は終わってしまう。この艦が世界の最後の希望なのだから。 そんな運命を変えなければならない。 「……吉良沢さんっ!」 ただ、何て事のないように、世界の裏側で数十名が巻き込まれた殺し合いも、いつの間にか、世界全土を巻き込む最後の戦いへと変わっていた。 そして、彼らは、それをもう一度もっと身近な物へ──「助け合い」へと変えようとしている。 運命を変えようともがいているのだ。 それを吉良沢はどう見たのか──。 「憐……」 吉良沢は、ただ拳を握った。 絶対脱出不可能な監視された施設から抜け出し、海に行ってタカラガイを持ってきた彼の事が、吉良沢には思い出せた。 ここにいるのは、そういう者たちばかりだ。 この艦は沈むと──左翔太郎には、そう教えたはずなのに、彼はここに残ろうとしている。 運命が変えられると、彼も信じているのだ。 「僕も……僕も、命に替えても……運命を変えてみせる……! 僕達にはその為の勇気がなかったんだ……! ただ、それだけなんだ……! 人間は誰でも光になれる!」 自らの世界の運命に絶望し、それを阻止する為に他人を頼った吉良沢と織莉子であったが、その他人の口車に乗せられ変わった世界も、結局は束の間であった。 もしかすると、ただ平和に生きる人間たちを殺しあわせてまで勝ち取るような──そんな世界は、いずれにせよ崩れ去っていく運命だったのかもしれない。 彼らは──自分たちの力で、自分たちの居場所を守ろうとしてきた。その勇気があったのが、デュナミストとなった者たちや、円環の理だったのだ。 二人は、このしばらくの時で、それを痛いほどに教えられた。 最後に変える──この運命を変えて見せる。 「──償いましょう、一緒に」 「ああ……。彼らを絶対に連れて行く……!」 ──そんな時、吉良沢の握る拳が、ふと、何かの感触を掴んだ。 彼の右の拳に、暖かい光が結集していく。 掌を解くと、やはりそこにあったのは、「光」だった。 しかし、その形がだんだんと吉良沢の手には見えてきた。 「見える……あの時のタカラガイが。──そうか、これが光……!」 憐が海で取って来た光。 運命を変えた彼の見せた希望。 それが、今、──吉良沢の手に形作られてきたのだ。 吉良沢は、そっとそんなタカラガイの貝殻を包み、睨むように目を見開いた。 「これが、僕達の絆……!」 ≪PULL UP!!≫≪PULL UP!!≫≪PULL UP!!≫ ≪PULL UP!!≫≪PULL UP!!≫≪PULL UP!!≫ ≪PULL UP!!≫≪PULL UP!!≫≪PULL UP!!≫ だんだんとテンポを上げていくブリッジの警告音。 しかし、それよりも早く──辿り着く。 そう、この光が見えたのだから。 運命は変えられると、かつて憐が教えてくれたように。 自分も運命を切り開いてみせる。 「──させませんよ」 と、そんな時、吉良沢の腹部に厭な感触が過った。 内臓が裂かれたかのようで──冷たくもなく、ただ、どちらかといえば熱いような痛みが、後ろから突き刺さった。 吉良沢の着用していた真っ白な服が、次の瞬間、鮮血に染まった。 「え……? ──……ゴフ、ッ!」 吐き出された血は、喉一杯分ほどに見えた。 吉良沢が、そんな状態でも恐る恐る背後を見ると、そこには、「腕」と「槍」だけがあった。 そう──その腕が、槍を持ち、その槍が、吉良沢の腹を突き刺していたのだ。 腕は、見覚えのある術式──時空魔法陣から発されていた。 他ならぬ、ニードルである。 彼は、ダグバやガドルが時間稼ぎをしている間に、外の世界に脱出を試みていたのだろう。──そして、ヒーローシンドロームによる消滅を免れ、吉良沢の腹にその槍を突き刺した、という事だ。 「ニー、ドル……!」 「吉良沢さん……!」 織莉子もそれに気づいたようで、吉良沢を呼びかける声を発する。 だが、吉良沢の腹を貫いた槍はあまりに太く、そして、先端の複雑な形ゆえに、「完全に貫かない限り外れない」という形状の槍であった。 裏切り者の始末というには、あまりに遅すぎ──しかし、タイミングだけは完璧な殺戮であった。 「くっ……!! お前っ……!!」 「この艦を行かせるわけがないじゃないですか。確かに、面白い物を見る事ができるとはいえ……このまま、ベリアルたちの支配する世界の終焉をただ見守る方がずっと面白い……!」 「──ッ!」 血まみれの腕で、ブリッジのシステムを発動する。 もうすぐだ──あと僅かな距離で、辿り着ける。 目的の座標は間もない。 ベリアルの世界への扉はもう、すぐそこなのだ。 そうすれば、生還者たちは、アカルンの力であの世界に転送される。 そして、──きっと、勝ってくれる。 「──邪魔は、させない……! そう、命を賭けても……!! この艦は落とさせない……!!」 吉良沢の口から、より多くの血が吐き出される。 バケツから降ったような血の塊が彼の口より下に、まるで血液の川が流れたような跡を作った。システムにもそれが降り注いだようだが、幸いにも機器に影響はない。 だからこそ、確信をもって彼は告げた。 「僕達は──!!」 そう──それは、彼の最後の願い。 いわば、最後の悪あがきの言葉。 それでも、最後にそれだけの言葉を残せるのなら、やはり偉大であった。 「運命を変える」 【吉良沢優@ウルトラマンネクサス 死亡】 ◆ 美国織莉子は、その直後に魔法少女の姿へと変身した。 かつてないほどの怒りを胸に──しかし、戦闘の方法だけは、至極冷静に。 「オラクルレイ」 織莉子のスカートの裾から、「爆発する宝石」が投じされる。 オラクルレイ。 それらは、織莉子の任意で動き、敵に叩きつけられる事になるだろう。 普段は予知魔法の為の魔力が膨大すぎる為に、殆ど使われる事はないのだが──彼女は、戦闘においても一級である。 彼女の放ったオラクルレイは、時空魔法陣を通って、敵のヤマアラシロイド──ニードルの元に叩きつけられる。 「──何ッ!?」 時空魔法陣を通して、「向こう側」の声が漏れた。 そして、鳴り響いたのは爆音。ヤマアラシロイドの身体に、見事オラクルレイが命中したようであった。 向こう側からの爆風が、吉良沢の身体を揺らした。 だが、──彼はもう、死んでいた。それは既に彼の遺体である。彼の遺体に爆風がかかるのは厭であったが、残酷な言い方をすれば、もうそれは物でしかない。生きる者にこういう形でしか力を添えられないのかもしれない。 これ以上攻撃を受ける事を拒んだのか、その直後に、時空魔法陣が消えた。 「吉良沢さん……ゆっくりお休みください。あとは私が、あなたの分を補います」 織莉子は、吉良沢の遺体の近くに恐る恐るよると、そう告げた。 彼とは、運命を変えようとする者同士だ──。 吉良沢優という男には、目的が同じであるという繋がりがあった。それゆえに、共に行動しても大きな思想の違いや違和にぶつかる事はあまりなかったのだろう。 吉良沢ほどではないが、織莉子も頭の悪い方ではない。彼の話に何とかついていく事も出来た。あまり差はなかった。 友人、と呼べるほどではないが、同じグループの仲間として──吉良沢には、いくつか共感できたし、思う所が多すぎた。 そして、共に罪を償うと決め、運命に抗おうとする二人だった。 そんな彼に言葉をかけた後に、織莉子は構えた。 (──ニードル、どこからでも出てきなさい) おそらく──ニードルは、先ほどの騒動で、この艦の要となるこのブリッジの位置を完全に把握し、怪人騒動の中でこの場の魔力結界を解いたのだろう。 いずれにせよ、殆どの人間が脱出した時点でここは手薄になり、魔力による守護の恩恵もなくなる。 ゆえに、狙われるのは、ほぼ間違いなくこの場所で、ニードルはまだここを狙っているはずだ──。だが、どこから敵が来るかはわからない。 「……」 織莉子は息を飲んだ。 瞬きすらも許されない、切迫した瞬間──。 「……」 敵が来るのは、どこか。 織莉子の後ろか。上か。──それとも、機器を狙いに来るのか。 それがまだわからず、呼吸を落ちつけながら、そこら中を見回す。緊張の糸というのが心の中でぴんと張っているのがわかった。しばらくはほどけそうもないだろう。 吉良沢は、死して尚、機器の最重要部のスイッチを押している。あれを押している限り、艦は目的地に向かって進行し続ける。 狙われたのはあそこだろうか……? そして── 「──!」 ──視えた。 織莉子の今の狙い通り。吉良沢の遺体の近くから──。 血の池が出来た吉良沢の元に、織莉子が駆け出す。 ヤマアラシロイドの右腕を掴み、彼が余計なボタンを押す前に──。 「させない……っ!」 織莉子の腕は、ヤマアラシロイドの腕を掴んだ。 魔力が込められた両腕は、格闘のプロにも引けを取らないほど強く怪人の腕を握る事が出来る。あとは根競べだ。 ヤマアラシロイドの腕が勝つか、織莉子の両手が勝つか。 「……っ!」 力をぐっと込めた。 絶対にこの艦は目的地に辿り着かせて見せる。──そう心に誓いながら。 しかし、そんな織莉子の胸が、次の瞬間──目の前から、無情にも、貫かれた。 織莉子の目の前に突如現れた時空魔法陣。──そこから、手と槍が、現れたのだ。 「え……?」 織莉子は、思わず真下を見下ろした。 二つ目の時空魔法陣──そこから、ヤマアラシロイドの左腕が、槍を持って織莉子の胸を貫いていたのだ。 右腕は確かに織莉子が掴んでいる。 しかし、左腕は、また別の場所から時空魔法陣を通して織莉子を襲っているのだ。 織莉子の身体は、吉良沢の遺体の真隣で、胸を貫かれ、血をふきだしていた。彼女の身体から垂れていく朱色は、吉良沢の零した同じ色の液体と混ざっていく。 「……見事に読み通りの行動を取ってくれましたね、美国織莉子」 「わ、罠……?」 ──最初の右腕は囮。 その上で、織莉子が来るタイミングと位置に合わせ、攻撃を仕掛けたというわけだ。 それも、確実に息の根を止める為に、胸部を──。 しかし、ニードルにとっては残念ながら、織莉子は魔法少女であった。 彼女を殺すならば、それこそソウルジェムが必要である。 (──読み通り、か……。悔しい……わね……。でも、それが一番、甘いって……っ!!) 織莉子は、ヤマアラシロイドの右腕を掴んでいた両腕を同時に離した。 そして、次の瞬間、── (ここまでは読めたとしても……ここから先は……っ!!) ──織莉子は、胸を突き刺す針山の元に、敢えて突き進むように、踏み出したのである。 勢いを持って、自分の身体をわざわざより太い方へと叩きこむ。 痛みは広がる。だが──こうしなければどうしようもない。 (──読み通りにはさせないっ!) そう──この槍は、一度貫いたが最後、完全に貫かない限り抜く事ができない。 それならば──「その通り」でいいのだ。 逆に考えるのだ。この槍は、「完全に突き刺すまで抜く事ができない」のではない。「完全に突き刺してしまえば抜く事ができる」、と。 織莉子の前には、時空魔法陣がある。 これが、ヤマアラシロイドの居所へ繋がっている──。 織莉子は、槍に貫かれたまま、一瞬でその時空魔法陣の中に飛び込んだ。両腕を話してしまった以上、与えられた時間は一瞬だけ。 そこで片づけなければ、ニードルの右腕が機器に余計な攻撃を仕掛けるだろう。 まさに、一か八かの賭けであった。 「ぐっ……ぐぉぇっ……!!」 胸部の痛みは貫かれ、やがれそれは確実に心臓に損傷を来す場所まで広がっていく。 心臓が大きく破れ──大量の血液が口だけではなく、目からも噴出した。痛みと呼ぶには、あまりに凄絶すぎる物が上半身を支配する。 そう、たとえ今すぐにここで今すぐ誰かが回復したとしても、彼女の命が助かる事はありえない。 幸いなのは、彼女が魔法少女であった事だ。そう、たとえ心臓を貫かれたとしても、そこにあるのは痛みだけで済む。──ソウルジェムが砕かれない限り、彼女はまだ生きてはいられる。 これほどのダメージを受けながら、辛うじて生命があるのは、その性質がゆえだ。 しかし、それも間もなく終わる。 「オラクルレイ!」 彼女は、自分の生命活動が終わる前に、ヤマアラシロイドの居場所へ──この艦の外に辿り着き、そう叫んだ。 ヤマアラシロイドはぎょっとした顔で織莉子を見つめたが、もう遅い。 「何ッ!?」 彼の身体は、織莉子によってぐっと抱きしめられた。 それこそ、針の筵とでも言うべきヤマアラシロイドの全身を包み込んだのは、この聖母が初めてであっただろう。 だが、それも一瞬だった。 織莉子の身体を飾っていた無数の宝石は、彼女の身体から離れる事もなく、光った。 ──そして、轟音とともに、爆ぜる。 彼女の身体も、ニードルの身体も巻き込んで。 そう、艦ではない、ニードルのいたどこかで。 しかし、──それがきっと、微かにでも艦の運命を変えた。 本来、ニードルの手によって押されるはずだったボタンは押される事もなく──。 そして、ニードルという一人の男の未来と、美国織莉子という一人の少女の未来を巻き込んで、消え去った。 【美国織莉子@魔法少女おりこ☆マギカ 死亡】 【ニードル@仮面ライダーSPIRITS 死亡】 ◆ ≪PULL UP!!≫≪PULL UP!!≫≪PULL UP!!≫ ≪PULL UP!!≫≪PULL UP!!≫≪PULL UP!!≫ ≪PULL UP!!≫≪PULL UP!!≫≪PULL UP!!≫ 艦が警告音を鳴らし続けるブリッジ。 ニードルの腕はボタンを押す事もなく、吉良沢の遺体が押し続けているボタンだけがただ、艦を進ませていた。 だが──そんな彼の遺体と血だまりの元に、一匹の小さな獣が寄り添った。 「……君たち人間は、本当にわけがわからないね。変えられるかもわからない運命の為に、自分の命さえ賭けるなんて……。まあ、でも、今度ばかりはお礼を言うよ」 情報を共有している彼らインキュベーターの端末である。 彼はこのままアースラに乗っていても肉体が滅びるだけなのだが、その最後の瞬間を記録するのに丁度良い役割を持っている。 彼の持つデータは、また別のインキュベーターの元に転送されるので、丁度良いのだろう。 この艦に関するデータを最後まで有する事が出来るのは、彼らのように意識や情報を共有している特殊な生命体だ。──そして、彼だからこそ、ある意味、死を恐れずにここに載っていられる。 「──ただ……このままだと、アースラに残っている彼らも、いつベリアルのいる世界に旅だっていいのかわからなくなってしまうんだよね。……じゃあ、美味しい所を持って行くようで悪いけど──最後に、この言葉だけは僕が言わせてもらおうか」 そう言うと、キュゥべえは、そっと吉良沢の手を退かした。 艦は間もなく完全に消滅しようとしている。そして、既に座標は、この艦が人間を転送できる近くまで来ていた。ボタンを押し続けては通りすぎてしまう。 ──ブリッジから目の前を見れば、キュゥべえの視界に広がっているのは、「イレギュラー」な映像。ブラックホールのような果てのない暗闇がこの艦の視界を覆っている。 あらゆる世界線の枠から外れた、正真正銘のダークマター──それが、あの世界だ。 そして、ここまで来たならば、キュゥべえはこれを告げるしかない。 館内放送のスイッチを押し、キュゥべえは、彼らへの指示を告げた。 ◆ 「なあ、みんな……一つだけ聞いてくれ」 ──そう突然に切りだしたのは、超光戦士シャンゼリオンならぬガイアポロンであった。 彼らしくない湿っぽい語調に、誰もが違和感を持った事だろう。 しかし、彼の口から出た言葉で、誰もが納得した。 「最初に謝っておく事がある。──ニードルは、俺を追って艦に来てしまったかもしれないっていう事だ」 彼らしくない──謝罪の言葉だ。 隠すつもりはなかったのだろうが、確信も持てなかったので、今まで何となく黙っていたのだろう。 「言えなくて……悪い」 涼村暁の普段の態度が態度なだけに、これには何人かも辟易した。 しかし、だからこそ却って、その誠意は誰にでも伝わったのかもしれない。普段、謝りそうもない性格なだけに、いざ本当に謝ると、その誠意も人一倍よく伝わる物だ。 翔太郎とヴィヴィオが、そんな暁に言った。 「……んな事気にするなよ。結果的に、俺たちは新しい力を得られたんだ」 「そうですよ。……むしろ、本当にそうだって言うなら、暁さんに感謝します」 彼らの総意であろう。 結果的に、死んだはずの仲間と再び出会え、そしてこうして彼らの助けを得られたのは、他ならぬニードルが闇の欠片をばらまいたお陰である。 それもニードルの作戦のようだったが、今の放送を聞く限りでは、そんな野望も無駄であったに違いない。 だが、暁が言いたい事はそれだけではなかった。 「……それからもう一つ」 暁はまた、口を開いた。 それから、また目をきょろきょろさせて、少し躊躇ったが、口を開いた。 「──俺も、あいつらみたいに……このゲームが終わったら消えるかもしれないらしいんだ」 「えっ!?」 今度の言葉は、そこにいた人間全員を驚かせた。 暁が、消える──? それは、どういう事なのだろう。だが、暁はその理由を話そうとまではしなかった。 「ベリアルを倒したら、今度は俺も消えちまう。……あっ、だけど、ベリアルの野郎を叩き潰すのに遠慮はいらないからな」 それから、すぐにまた、いつもの暁のような調子で、軽く、笑みが含まれているようにさえ感じられる言葉で、付け加えたのだった。 だが、それにつられて笑える者などいない。 暁は仲間だ。──ベリアルを倒す事が、暁を消してしまう事に繋がるというなら、それは それで、また、暁は少し声のトーンを落とした。 「こういう事は、あらかじめ言っておいたほうが、後味悪くなくて済むだろ?」 「お前……それをずっと隠してたのか! なんでもっと早く俺たちに言わなかったんだよ……!」 「それはいいだろ? 言うなら、俺の気まぐれだ」 声のトーンは低かったが、そこだけは何故か普段の暁の調子のように聞こえた。 誰もがじっと彼を見つめていた。その視線が統一されている中、暁はじっと、目の前の一人一人の顔を見つめた。 すると、ある想いが湧きあがり、柄にもなく、目頭が熱くなりかけそうになる。 ──消えたくない。 いや、しかし、瞼に力を籠め、一度だけ瞳を閉じると、再び彼らに言った。 「──じゃあ、そういうわけだからさ。言った通りだ。……こう言っちゃなんだけど、俺はもう充分人生を楽しんだし、太く短くが俺のモットー。ふんわか行こうよ、ふんわか……」 そして、暁が、叫ぶように言った。 「……そう、ふんわか行って、最後に世界を変えて見ちゃったりしようぜ!」 そんな時に──艦内に、キュゥべえの指示が流れる。 『ガイアセイバーズ、出撃!!』 【────次回、変身ロワイアル 最終回!】 時系列順で読む Back BRIGHT STREAM(4)Next 変身─ファイナルミッション─(1) 投下順で読む Back BRIGHT STREAM(4)Next 変身─ファイナルミッション─(1) Back BRIGHT STREAM(4) 左翔太郎 Next 変身─ファイナルミッション─(1) Back BRIGHT STREAM(4) 花咲つぼみ Next 変身─ファイナルミッション─(1) Back BRIGHT STREAM(4) 佐倉杏子 Next 変身─ファイナルミッション─(1) Back BRIGHT STREAM(4) 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http //www.bright-online.net/ member Nagi Mi-Mi Meg Nanaka Notes 4 You Notes 4 You 2009年1月14日 (m01) 1. Theme Of BRIGHT ~ Notes 4 You ~ / 2. Love Joy / 3. ソライロ / 4. One Summer Time / 5. So Long, Too Late / 6. I ll Be There / 7. My Darling ~ I Love You ~ [ feat. SCOOBIE DO ] / 8. Interlude ~ Brighten Up ~ / 9. Watch Out / 10. You Were Mine / 11. 恋をして / 12. 手紙 [ feat. K / album ver. ] / 13. Believe / 14. Brightest Star [ unplugged / bonus track ]
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Bright(ブライト) 本名 ワチラウィット・チワアリー 生年月日 1997年12月27日 身長 183cm 出演作品 2gether Twitter https //twitter.com/bbrightvc?s=09 Instagram https //instagram.com/bbrightvc?utm_medium=copy_link 非の付け所がないイケメン。2getherでは笑顔少なめだったけど笑うとめちゃくちゃカッコ可愛くて死ぬぞ。
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作詞:Wonder-K 作曲:Wonder-K 編曲:Wonder-K 歌:初音ミク 翻譯:kyroslee Bright 乾燥的空氣此刻 將我們包圍着 陰天轉瞬之間放晴起來 你對曾而迷失的我 悄悄施展了小小的魔法 灑落的那道光芒銘刻於心中 不論何時亦必定不會消失的吧 開展的未來 一切都開始變得有其意義 就如此 看吧 不論多遠路亦能走過似的 有着這樣的感覺 總是同樣地不斷放棄 一事無成逐漸衰老 那樣的日子可不能再繼續下去呢 我由心如此認為 灑落的那道光芒銘刻於心中 此刻的我因那份傷痛而逐漸改變 開展的未來 我將接受一切 就如此 看吧 不論多遠路亦能走過似的啊・・・ 灑落的那道光芒銘刻於心中 不論何時亦必定不會消失的吧 開展的未來 一切都開始變得有其意義 就如此 看吧 不論多遠路亦能走過似的 有着這樣的感覺 --- Bright 作詞:Wonder-K 作曲:Wonder-K 編曲:Wonder-K 中文翻譯:Alice Bright 乾燥的空氣此刻 將我們團團包圍 多雲的天空轉眼 晴空萬里 你悄悄給了迷惘多時的我 小小魔法 那道光芒灑落 烙上痕跡 一定無論何時都不會消失吧 未來起步 一切開始被賦予意義 這樣下去 你瞧 好像就可以到達任何地方 我深深認為 如果總是像這樣不斷堆疊「放棄」 最後就會什麼也做不成就此衰老 已經不得不阻止自己這樣過活 我打從心底這麼想 那道光芒灑落 烙上痕跡 現在就讓我借助這份疼痛來改變 未來起步 敞開心胸接受一切事物 這樣下去 你瞧 好像就可以到達任何地方… 那道光芒灑落 烙上痕跡 一定無論何時都不會消失吧 未來起步 一切開始被賦予意義 這樣下去 你瞧 好像就可以到達任何地方 我深深認為
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【登録タグ 曖昧さ回避】 曖昧さ回避のためのページ Wonder-Kの曲Bright/Wonder-K ナカノは4番の曲Bright/ナカノは4番 曖昧さ回避について 曖昧さ回避は、同名のページが複数存在してしまう場合にのみ行います。同名のページは同時に存在できないため、当該名は「曖昧さ回避」という入口にして個々のページはページ名を少し変えて両立させることになります。 【既存のページ】は「ページ名の変更」で移動してください。曖昧さ回避を【既存のページ】に上書きするのはやめてください。「〇〇」という曲のページを「〇〇/作り手」等に移動する場合にコピペはしないでください。 曖昧さ回避作成時は「曖昧さ回避の追加の仕方」を参照してください。 曖昧さ回避依頼はこちら→修正依頼/曖昧さ回避追加依頼
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